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□―しあわせを君に―
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―しあわせを君に―
「これ、オメーにやるよ」
そう言って、探偵はズボンのポケットから取り出したハンカチを大事に差し出した。
清潔に洗われた白い布の中から現われたのは、四つ葉のクローバー。
「……ありがとう、ございます。名探偵」
『体は子供、頭脳は大人』とだけあって、いつもこちらを振り回してくれる小さな探偵の贈り物。
「私のために随分探し歩いて下さったんですね。嬉しいですよ」と素直に湧いた気持ちを伝えると、
「バーロー、そんなんじゃねぇよ」と照れ隠しで本音を言えないのは探偵の方だ。
―――愛用の靴が、泥と草の汁でずいぶんと汚れていますけど?
シラを切ろうとする様子が可笑しくて、いとしくて堪らない。
クローバーは怪盗の象徴だ。それを彼は知っているのだろうか。
「いつかちゃんと幸運をつかめよ」
不器用にしか言葉を紡げない探偵の精一杯が込められたエール。
「えぇ、もちろん」
胸が温かいもので満たされた怪盗は、思わず紳士らしからぬ行動で答えた。
ぎゅっと、ハートフルに探偵を抱き締めて。
名探偵は、おひさまの匂いがした。
―しあわせを君に―