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□―Mama―
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日曜日の朝早く、自宅のチャイムが鳴り響く。
寝不足の目をこすって何とか応対に出た俺は、玄関に広がるその光景に、まだ夢をみてるのだと本気で思った。
―Mama―
玄関開けたら、恋人がいた。しかも黒羽快斗としてではなく、『怪盗キッド』として。
早朝から何の冗談かと思ったが、さらに信じられないことに、親密そうに彼が腕を組んでいるのは、自分の母親――工藤有希子その人である。
ツッコミ処が満載で、固まった俺に
「うふふ、新ちゃんたらvvびっくりした?」
と、彼女は相変わらずの調子でのたまってくれた。
人数分の珈琲を煎れて居間に戻ると、有希子は快斗(もう衣装は解いていた)にマジックをねだっていた。
仲の良さそうな雰囲気に、二人は知り合いだったかと思いそうになるが、その可能性は無いはずだ。
だって、自分たちが晴れて思いが通じ恋人同士になったのが新一の誕生日の5月4日なのだ。
その記念すべき日から一週間も経っていない。有希子とは電話もしていない。ましてや帰国の予定も聞いていなかったのに。
しかも、黒羽快斗とキッドが同一人物であることもバレているようだ。
何がどうなっているのか、快斗に問い詰めたくても、彼は今、有希子の専属マジシャンと化している。
ぽひゅ、ぽひゅ
彼にとっては遊びにもならないだろう基本のマジックに有希子は手をたたいて喜んでいる。
物言いたげな俺の気配を感じてか、快斗が有希子に向き合ったままで、一瞬視線をこちらに投げてきた。
――推理してみろよ、と。
突然の帰国。
息子の恋人のエスコート。
そして―――あぁ、そういうことか。
日曜日。
答えはあっさりとカレンダーの中に見つかった。
マジシャンの手から贈られる赤い花。
有希子がもっととせがむので彼女の膝の上には小さな山が出来上がっていた。
手の珈琲カップを置いて、テーブルの向かいに座る彼女の元へ。
快斗が空中から取り出した花の片方を手渡してくれる。今までのマジック用の造花ではない。
生花のカーネーション。
「母さんに」
「お義母さんに」
俺と快斗から一本ずつ。
快斗の『おかあさん』の持つ意味に気付き、何だか居たたまれないような、温かいような気持ちが沸き起こった。
「母さん、ごめん。遅くなったけど紹介する。恋人の黒羽快斗」
ようやく叶った紹介に、どこかで緊張していたらしい母さんは肩の力を抜いた。
そして、
「息子がふたり、っていうのもなかなか素敵ね!」
と、嬉しそうに笑った。