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□―歌を花束を―
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夜の空は、果てが無い。
月の光はいつでも俺を冷たく突き放した。
夜気に冷えた体のなかで、胸の奥だけが燃えるようだ。
念願のパンドラを手に入れ、それを取り巻く組織との決着をつけた俺は、名探偵に最後の予告状を送った。
―――なぁ、名探偵
この夜が明けたら、俺も光の中に行けるだろうか。
冷たい石の塊ではなく、誰かの温かい手を握っても良いだろうか。
それが、名探偵。あなたであることを、望んでも良いだろうか。
目的地の屋上。転落防止柵にもたれている彼の姿が見えた。
―歌を花束を―
夜目にもまばゆい怪盗の衣装が、本当は何度も、血や砂にまみれているのだという事を、俺は知っている。
音もなく空から現れた怪盗の、気障な挨拶を聞く前に「待ちくたびれたぜ」
と、一声なげかける。
「時間どおりですよ、予告状。解読されたのではなかったのですか?」
ポーカーフェイスの怪盗は心外とばかりにため息をついた。がっかりだと、目が物語っている。
その様子に口の端で笑んでバーローと呟く。
「もちろん、解読したさ。ずいぶんと遠回りだったな」
「おめでとう、キッド。
お疲れさま」
大きすぎる舞台を成功させた怪盗に心からの拍手を送ってやる。手の皮を惜しまない盛大なものを。
見る間にポーカーフェイスが崩れ、
「参ったな、アンコールは、ないんだよ」
と、目頭を押さえて、声を震わせる彼に、キッドの面影は見いだせなかった。
怪盗キッドはもういない。でも、それで良いんだ。
アンコールは、これからだろ。
「もういないシリーズ」
つづく