戦国

□ないしょ
1ページ/1ページ

重兼兄ちゃんがサボってる間に何をしてるのか妄想してみた

※試作品




孫市の兄、重兼は戦場に立つその格好が、邪魔そうにひらひらしててある意味孫市よりも目立ってる。
まじめにやる気があるんだかないんだか、と守重がぐちっていても全く気にしてなくて、語尾に鼻歌を交えながら飄々とどこかへ行ってしまう。
依頼の真っ最中でも。
そのまま、雑賀が劣性でない限りはだいたい戻って来ない。そして、私たちが雇われてる方が優勢のまま事が運んでいけば、戦が終わるちょうど頃合いを見計らったようにふらふらと帰ってくる。
そんな“サボり癖”のある家族、重兼に孫市もちょっとは困ってるみたい。
「どっか行くんなら一人じゃなくて何人か護衛に連れてってくんねぇか」
とたまに頭をかかえてる。そんな孫市に、守重は
「注意すんのはそこじゃねぇだろうが!」
とかなり本気でキレててちょっとだけ怖い。でも二人とも、きっと考えてる事はおんなじ




『ないしょ』




「みんな…重兼のこと心配してる」
「へ?」

いきなり無二が目の前に来て、まじまじとこちらを見るもんだから、なにを言い出すのかとちょっと身構えていた。のだが、

「心配?俺の?」
「…(こくっ)」
「なんでまた」
「重兼がかってにサボっていなくなるから」
「ああ…それね」

またその話かやれやれ、と大げさに肩をすくめる。すると、無二は静かにそれを見つつ、こてん、と首を左側に倒した。言葉の少ない無二に特有の、どうしてなのかわからない、というポーズ。
そして“どうして?"と問われてる側の俺なわけだけど、俺も何にたいしてどうして?と言われてるのかわからないわけで、
目の前の無二と同じポーズで返す。いや、周りに人は居ないんだし、このくらいのノリの方が無二とは話しやすいんだ。油断してると急に足元をひっくり返されるから注意が必要なんだけどな。

「重兼は、みんなと戦うのが嫌いなの?」
「まぁ面倒なのは嫌いだが、お前たちのことが嫌いなわけじゃないからな」
「孫市も?」
「ああ、出来のいい弟を持つと兄貴はいろいろと楽ができていいぞ。部隊の指揮もあいつだけで十分足りてるじゃないか」

な、だから俺が一人くらいサボったって大丈夫だろ?とちょっと胸を張って笑ってやる。
すると、無二も素直にそう、と一言だけつぶやいた。どうやら納得してもらったらしい。

「じゃあ、重兼、」

再び無二の首がこてん、と左へ傾く。こんどはなんでしょうか?と軽くからかうように笑みで返すと、その小さな口から出た疑問符は、

「どうして…“サボり”から帰ってきた重兼からは、火薬のにおいがするの?」

核心を突いたものだった。
刹那、二人しか居ない空間は時間が止まったように静まり返る。目が、その小さな口元と、まっすぐな瞳に縫い付けられたように動けないまま、黙った俺に対して、さらに抑揚に乏しい声は続ける。

「それに…帰ってきた重兼は、いつも通り…だけど、変に呼吸が落ち着いてる…。集中してたから?」

小さな首が傾く。そのしぐさに、一瞬らしくもなく思考を止めてしまったが、すぐにふっと破顔してみせる。

「さっすが、鋭いなぁ無二は」

たはは、と苦笑混じりに二回りも低い位置にある頭をぽんぽんと撫でる。
膝を折って屈めば、目線が等しくなる。

「あのな、無二。これは俺の戯言だから出来ればすぐに忘れてほしいんだけど」
「…わかった」
「お、いい子だ。うーんなんつうか、全部嘘ついてたわけじゃあないんだけどなー」

気配だけで人が居ないコトを確かめてから、軽く帽子を下げて続ける。

「孫市に指揮を任せられるのは本当だし。…けど、アイツはどーしてもちょっと甘い。まぁそれがアイツのいいところだから、俺はそのままで良いと思ってる。雑賀の評判もおかげさまで悪くない」

だから

「表はアイツに頑張ってもらって、俺は影でこっそり動く。やっかいな敵さんには偶然飛んできた流れ弾に当たってもらうのが一番いい」

「戦は勝たなきゃ意味がない。逆に言えば勝てばいいんだ。それが、見えないとこから人を殺すような、卑怯な手段だったとしてもね」

ほら、俺は走り回るのは得意じゃないからさ、といつも通りの口調で終えて無二を見ると、その目は珍しくこちらではなく下を向いていた。

「…弟を危ないとこに出しといて、悪い兄貴だろ?」
「…重兼は」
「うん?」
「雑賀のみんなを、独りで守ってる」

予想外の一言とともに、無二がこちらの目をひたと見据える。

「わかった」
「えーと…」
「重兼が言うなって言うなら、言わない」
「あ、ああ」
「でも、1人は危ない。…孫市が心配する」
「うーん、そこはまぁなんとかするさ」
「そう…」

それだけ言うと、無二はすっと踵を返した。かと思うと、一歩も行かないうちにくるっと顔だけ振り返る。

「じゃあ無二も、重兼を守る。…ありがと」

そう、相変わらずの無表情で言って今度は振り返らず駆けて行った。でも知ってる人ならわかる、その声の違い。

「ずいぶん頼もしく育ったなぁほんと」

さすが、孫市が見込んだだけはある。
自然とほころぶ顔をそのままに、人気のない方へ歩き出す。
さて、次の依頼に向けて"サボり"が出来そうな場所の目星でもつけておくか。








-了-




兄ちゃんメインのハズが無二っち書きすぎた罠。

拙宅の兄ちゃんは狙撃手タイプ。ぶっぱなすというより1人1人淡々と刈り取っていくんだと思いますすみませんでした。

2012/7/9

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ