蜀
□その先に
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張翼と姜維の話
※試作品
※誰得カプというかカプまでいってないというかどうしてこうなったというか、です。
※姜維はなんとなく軍師なイメージですみません
※とても明るくない
大丈夫な方のみ、ドソー…;;
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「だから、俺も一度は止めたんだけどなー…」
「はは、やっぱり聞かなかったか。あいつ見かけによらず頑固だから」
「笑い事じゃねぇって関興、アイツ最近じゃあ恋する乙女並みに北伐のことで頭いっぱいなんだぞ」
風の無い部屋で揺れる金髪とは反対に、張翼はほとほと困ったとガックリ項垂れた。
「そりゃぁ…大変だな」
「まぁ俺だってやるからには負ける気はねえけど…アイツに、もう少し余裕持たせられないかなって」
「余裕無いのか?姜維のヤツ」
「最近じゃとくに…なぁ」
グッと背を伸ばし、後ろにもたれかかる。それを静かに追う金の瞳はただ張翼の言葉を、じっと待ってくれている。
以前から変わらない、やっぱり関興には溜め込むような些細な愚痴も吐き出しやすい。だからたまに
「…俺がもっと頼り甲斐のある将だったら…いいんだろうな」
つい、情けない弱音も出てしまう。
「俺がもっと強くて、頭よくて、アイツの考えてる事を全部わかってやれたら―」
―きっとアイツは
―前みたいに笑ってくれるのに
「関興」
わずか見上げると、返事の代わりに、視線が交わる。口を開くと同時、張翼は相手に向けて笑った、少し寂しそうに。
「お前らが、居たらなぁ」
誰にも言えなかった最後の弱音は
ふと、引き戻されたうつつによって霞と消えていった。
「張翼、こんなところに居たのですか」
目をこすり、ちっぽけな世界を映せば
そこに新芽の息吹くような淡い、だが鮮やかな緑が映り込んだ。
「んぁ…?ああ、よっ姜維」
「よっ、ではありません。いったい何をしているのですか」
「怒んなよ、見りゃわかんだろー」
「はいはい、居眠りとはなんとものんびりしてらっしゃることで」
「ああそれと、懐かしい仲間に会ってた」
「はい?…誰も居ませんが」
「ような気がする」
「なんですかそれは…」
驚いてキョロキョロと周りを見渡した姜維は、冗談だと声を立てて笑っている張翼になんとも言えず呆れ返った。ため息とともに軽く目を伏せた時、ふと張翼が目の前に立ち上がり、
「あ、姜維お前ちゃんと寝てんのか?」
目のクマが濃くなってるぞ、と槍を振るう張翼の硬い指先が瞳のすぐ下をゆるりとなぞる。
対する姜維は、からかうような声に純粋な心配を滲ませる相手の手を無言で払い、大丈夫ですと言葉だけで告げた。
「はぁ、貴方は悩みなんて無さそうでいいですね。羨ましいです」
「そりゃどうも」
「誉められているとでも?」
「あ、やっぱし?んでも、上に立つヤツがくよくよしてちゃあ部下がついて来ねぇだろ?」
トゲのある言葉を気にすら止めていないように、ツンツンと立ち上がった茶髪が愉快そうに揺れる。そんな笑顔と反対に翡翠色のまつ毛が震える。
「張翼…」
「うん?」
「此度の戦、行かぬつもりではありませんよね…?」
こちらをチラリとも見ないまま告げるその表情は伺い知れない。
それでも
「まさか、もちろん行くぜ」
彼にとってはどうでもよかった。
「無茶だっつってもお前が行くと決めたんなら、俺は付いていく。どこにだってな」
「…」
「何があっても、最後まで俺はお前の味方でいてやるから、まっ心配すんな!」
すぐ間近まで顔を突き合わせ、ニッと笑うと、姜維の肩をバシッとひとつたたく。それに、痛いですよ、と正当な文句を言いながら、彼は疲れた顔をわずか引きつるようにして、それでもたしかに、笑った。
それだけでよかった。守れるなら、それだけで
なのに、ふとした瞬間に考えてしまう
信頼し得る仲間と導かれていた過去はあっけなく過ぎて
果てなく続く戦乱に身を投じる
『その先に』
お前の帰る場所は、あるのか?
-了-
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何故、宅の張翼は姜維が好きなんでしょうか…
2012/7/6