□惚れるが勝ち
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そっぽを向いたまま相手に顔さえ見せないが、今度は身動ぎせずにぽすんとその腕に収まる。


「なぁ、孔明。俺がまだ水鏡先生の所に居た時の話だ。俺、あそこでかなり浮いてただろ?こんな成りだしな。俺に近づいて来るヤツはいなかったし、俺も1人で居る事を選んだ。」

「…」

「だがな、ある日俺が木の上で書を読んでたら、1人の若い男が近づいて来て言うんだ。
何の書を読んでいるのですか?
ってな。驚いたよ、笑顔で普通に話しかけて来やがってな。」

「…」

「そいつは、俺の過去なんか一切関係無いように、他の奴等と同く接してくれた。それから俺はそいつの事がずっと気になって…きっと、一目惚れだったんだろうと思うんだ。」

「何を言っ…」

「覚えてないか?お前だよ、孔明。」

「俺はお前を知ったあの瞬間から、お前以外見えちゃいない。こんなに長い間想ってるんだ。心変わりなんて馬鹿馬鹿しいと思わないか?」


やっぱり貴方は笑う。何者も覆せないような、その笑みで。


……知らなかった。
彼がどれだけ真っ直ぐに私を思ってくれているのか。

貴方はいつも、何でもないように振る舞うから。


「……貴方って人は、ほんと……どうしよう
もない人ですね。」

「そうか?そこは褒められて然るべきだと思うんだが。」

「きっぱりと否定いたします。」

「へいへい。まぁ、俺と同じくらい浮いてたアイツともすぐ打ち解けたあたり、お前はただ分け隔て無く接するのが上手いだけなんだろうがな。」

「徐庶、そん…」
「勘違いするな、俺はそんなに悲観的じゃない。お前はどうあれ、俺をこんなに惚れさせてるんだ、孔明には責任を取ってもらわないとな。」

「え?」

「たっぷり惚れさせてやるよ、俺に。」

「な…っ!!」


言うが早いか、徐庶は諸葛亮の肩に回していた腕の片方を素早くその後頭へと回す。


「ちょっと徐庶!待っ…」


抵抗して離れようとしても時すでに遅く、首がまったく動かない。
さすがに覚悟を決めようかと思った。その時

徐庶がハッとして窓を振り返った。
ホッとする間もなく、諸葛亮も同じく視線を沿わせる。
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