□惚れるが勝ち
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その太い腕から逃れようといくらもがいても、広い肩はビクともしない。



「このっ離しっ…」

「なぁ孔明、もしかしてお前、」




  俺に妬いてくれてんの?




「はぁ!?」


それはこれまでの状況も何もかもが、まるで彼に何の影響も与えなかったと言わんばかりの突拍子も無い発言。
諸葛亮は我が耳を疑って思わず上ずった声を出してしまった。

いったい何故、この流れで、この状況で、そんな馬鹿げた考えになったのかなど、怒りに震える諸葛亮にはわかるはずもなかった。無言の抵抗とともに、射殺さんとする程の怒気が飛ぶ。

一方、射殺さんとされた相手は、嬉しそうに笑ってみせた。



「わるいわるい。でもお前は今まで俺が誰と遊ぼうが何も言わなかったし、怒りもしなかっただろ?」


今回もそうだ。と彼はいつもの如くひょうひょうと言葉を続ける。


「まぁ、惚れたのは俺からだったからな。ともすると俺、本当はお前にどうも思われてないのかと思ってな。」


今日はそこん所を確かめに来た。

そう言って彼はおとなしくなった私を解放した。
散々混乱して頭痛さえ居場所を無くした頭のまま見上げれば、真剣な琥珀色の瞳と目が逢う。

「…つまり貴方は私に妬いてほしかったと?」

「ああ。」

「まさか、女性に追いかけられて私の家に転がり込んで来たのは、わざとでは…?」

「最初は違うが。」



信じられない!!
それでは最初以外はわざとだという事ではないか!!

あのとんでもない心労を思うと怒りを軽く三里ほど跳び越えて、もう呆れるしかない。
孔明は盛大な深いため息を吐きながらガックリと頭を垂れた。


「馬鹿ですか貴方は…っ」

「馬鹿で結構。俺はお前が好きなんだ、孔明。」

「…またそうやって」

「本当だ。俺が欲しいのは唯一、お前だけだが?」


あぁまたこの笑みだ。

細められた琥珀色の瞳が、自信有り気に弧を描く唇が、疑う余地など無いように思わせる。

ずるい。

それでも認めるのが癪で、諸葛亮はあからさまにそっぽを向いて、信じられませんと突っぱねた。
すると徐庶はおもむろにその相手の肩を優しくその厚い胸へと抱きき寄せた。
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