□惚れるが勝ち
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どちらも黙々と硯に向かう。
手を伸ばす度に確実に減っている紙の山に少し驚いた。
そして陽もまだ高いうちに、


「これで最後だな。ふーっ終わった終わった。」

「…」


早い。
二人がかりとはいえ今日の仕事はいつもより格段に多かった。
そしてこの男の元にいっていた量も少なくはなかったはずである。

普段は怠けているくせに、本当に底が知れない。

徐庶は、いつの間に片付けたのか何も散らかっていない後ろの床に、伸びをしながら寝ころんだ。

苦労や緊張感の欠片も無く、まるで昨日何事も無かったかのようなその表情。

つい昨日他の方と遊んでおいて、今日は私に会いに来たなどと、いったいこの人は私を何だと思っているのだろうか。


「失礼ですが、用が終わったならお帰り願えますか?」

「やけにつれねぇなぁ、手伝ってやったのに。」

「全く頼んでいない事に加え、いっっつも世話を焼かされていますからね。」

それに、と続ける。


「どうせ今回の事も唯の気まぐれなのでしょう?貴方はいつもそうです。気まぐれに居なくなって、気まぐれに仕事して、遊び歩いて」


違う、こんな事を言うつもりはないのに、止まらない。



「どうせ他
の女性達にも私に言うのと同じように、愛してると囁いて歩いているのでしょう?」


「…孔明、」

「何も聞きたくありません。馬鹿にしないで下さい。私だって…っ!!」


振り向いた瞬間、いきなり徐庶が正面から私を抱き締めた。
ゆっくりと起き上がって私の話を聞いていた彼の突然の動きに、思考が一瞬固まってしまう。
一度覆われてしまえば抵抗しても意味を為さない体格差だが、それでもしなくて良いわけがなかった。
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