蜀
□惚れるが勝ち
3ページ/11ページ
(また勝手に…そして追い返さない私も私だ…本当にもう…)
考えるだけ無駄なことはわかっている。だが、感情のはけ口を求めるように、ため息は止まらない。
そう、考えるまでも無いのだ。
彼を追い返すなんて、簡単なのだから。
淡々と情の欠片も無い言葉で、キッパリと簡素に、嫌だから帰ってほしいと伝えればいい。
理由を付ければしれっと反論されてしまうから。
実際、そうやって追い返した事がある。
驚愕で目が見開かれ、色の薄くなった瞳が私を見、口端を結んだ彼。
勝った。そう私は思った。
ああわかった、と一言呟いて背を向ける直前。彼は微笑んだ。
とても、寂しそうに。
私を支配したのは罪悪感だった。
もしかしたら演技だったかもしれないとは思う。彼は他の人にそんな事を言われても絶対に動じないし、絶対にあんな表情はしない。
なのに何故…
あぁ、こんなに甘いからいけないのですね。
そんな事をチラリと考えながら、頭痛に負けじと手を動かす事に集中した。
横目でちらりと徐庶を見る。
前髪で所々隠れながらも、真剣に文字を追うその横顔。たくましい顔つきに無精髭がよく似合う。
私より年上だというのが嘘のようで
、たまに不老なんじゃないかとすら思う程だ。
ずっと以前に、私から彼へ髭を生やして威厳が出たのは良いが、かなり老けて見えると愚痴をこぼした事があった。
すると彼は笑って、
「ほら、あんたの肌触ってみろよ。見事につやっつやだろ?俺のはもうぼろぼろ、しかも最近皺が増えたときた。な?お前はまだまだ若いだろう。」
「どさくさに紛れて手を握ったあげく頬に押し付けるなんてセクハラですか?やめて下さい訴えますよ。」
「お〜こえー。人が慰めてやってんのに。」
「お気持ちすら結構です。」
素っ気なく手を引き戻す。
確かに月日を重ねた肌は厚く、手触りも良いとは言えない。
だがその頬は引き締まって若々しく、口端をつり上げた時に入る皺も、彼の笑みをさらに引き立てているように見えた。
しかもそれは今もなんら変わっていない。