蜀
□惚れるが勝ち
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「孔明〜、居るよな。入っていいか?」
あぁ相変わらず偉そうに…。
ええ、居留守使うに決まっています。三度来やがれってんです。
「…っかしいな…ちょっと邪魔するぞ。」
なんでそうなるんですか貴方は!!
傍若無人にも程があります!!ってああもうっ
「勝手に入らないで下さい!」
とっさに出た制止する声に、まさにいま開こうとしていた扉がピタリと止まった。
「なんだ、居るのか。」
孔明がしまったと思う前に、いっきに扉が開く。
「ち、ちょっと!!」
「邪魔するぞ〜」ガチャッ
扉の向こうに立っていたのは、残念ながら予想通りの人物。
高い背、不規則に波打つ髪、そしてその不遜な表情。
今一番の悩みの種。徐庶元直その人である。
ずかずかと部屋に入って来る彼を丸無視するように背を向け、諸葛亮は机へと向き直った。
「なんだよ、部屋散らかってんな。片付けないなんてお前らしくない。」
「うるさいですね。私、今忙しいのです。どうせまた厄介な女性につかまったんでしょう。いい加減にして下さ…」
「いや?今日はそうじゃないんだが?」
すぐ耳元で響いた低音に背筋が粟立つ。いつの間にか真後ろに
居た図体に、振り向きざまにひじ打ちをくり出す。
しかし、その場慣れしたその腕でぽんと軽く受け流されてしまった。
「っ…!じゃあ何ですか。仕事をさぼって私をからかいに来たと?」
「仕事なら終わったぞ。」
「…は?」
「溜まってた分は昨日までにやったし、今日の分はまぁ、ちゃっちゃと終わらせて来た。今日は孔明に会いに来るつもりだったからな。」
そう言って目を細め、唇で弧を描く。本当だぜ?とでも言いたげな自信を含んだ笑み。
その笑みを向けられてしまうと、何を馬鹿な、と思いながらも言葉が出て来なくなってしまうのだ。
「そんな訳で、手伝おう。いっつも手伝ってもらってるんだ、たまにはな。」
言いながら許可も待たずに私の隣をざかざかと片付け、山になって積まれている竹簡の一つを広げ始めた。