□今、気付いた事
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薄暗い廊下を1人の男が足早に闊歩していく。
武人として申し分なく鍛えられた身体。
その背に沈みきっていない夕陽を受けて、透き通るような金髪が光った。


「ホント大丈夫かよ、張苞のヤツ…」


自室とは反対側の廊下を歩きながら、その男、関興は呟く。

問題の男、張苞はここ最近どうも様子がおかしい。
気付けば毎日浮かない顔をしていて、子どもの様に天真爛漫なあの笑顔を、ここ何日も見ていない。

そして遂に今日



『今は誰とも会いたくねぇ。』



そんな事を言い出した。

病気でもないらしいので、あの知力1がいったいどうしたのかと周りは気が気でない。

だが関興は思う。
単純で素直で頑固だからこそ
悩むとなれば並大抵では済まないのだろうと。

何か壁にでもぶち当たったのだろうか。
そして何故それを自分にさえも話してくれないのだろうか。

自分には何かしら相談してくれるんじゃないかと淡く期待していた関興は、少し落ち込んでいた。


(俺ってそんなに頼りねぇのかなぁ…。)


そんな事を考えていると、何故だか頭ん中がモヤモヤして気分が晴れず、どうも気になる。
なので、とにかく会ってみる事にした。
うん、俺も所詮知力4だって事だ。





目的の人物の部屋の前まで来て、扉を叩こうとしたその瞬間。

ガチャッ

突然俺の視界にそいつが飛び込んできた。

俺も驚いたが、あっちはもっと驚いたのだろう、切れ長の目を丸くしている。


「よっ張苞。驚かせて悪い。」

「あ、あぁ…。」


張苞は柄にもなく、かなり動揺している。…やはり、どこか具合が悪いのだろうか。


「どこに行くつもりだったんだ?」

「あー…。いや、…」

歯切れ悪く唸りながら、ついっと俺を指差す。
あ、俺の所に来るつもりだったわけ。

なんだ、んじゃ丁度よかったか。
そう言って金髪の男は群青の髪の男に満面の笑みを向けた。




部屋に入れてもらい、アイツが話を切り出すのを待つ。
話せっつうと逆に話さなくなるんだから困ったもんだ。


寝台の上にどっかりと座って、決まり悪そうに口を閉ざすそいつの隣に、俺も座る。

聞こえるのは微かな風の音くらいなもんで、今までこんなに静かな時間があっただろうか、いや絶対無い。

そんな長い沈黙を破ったのは、俺からだった。


「なぁ苞、なんでそんなに鬱いでんだよ。俺にも話せないような事なのか?」

そう、不満気にやれやれと呟いた。その時だった。

張苞の表情が一変した。


「っ誰のせいだと…っ」

「あ?っつわ!!」


動いたのは一瞬
あまりに予想外の出来事に、俺は全く抵抗出来なかった。


全く抵抗出来ないまま、俺は寝台の上に仰向けの状態で組み敷かれた。

天井を仰いだ俺の真上に張苞の双眼が光る。


(え…、えぇぇえええっ!!??)


状況がのみ込めない。ただ、すごくヤバいのはがっつりわかる。


(こいつ、覚醒しやがった!!)


普段は深い海のような瞳に纏った金色の光がその証拠。
俺達は覚醒すると何をしでかすかわからない。
なんせ理性が半分飛ぶからな。


(ってそんな事考えてる場合じゃねぇ!!)



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