或る愛の物語
□背徳との狭間
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オーナーが住むマンションはお店から程よく離れた場所だった。
「お邪魔します…」
「おう、あがれ」
オーナーの後を恐る恐るついて歩くと広いリビングに通され、私の緊張はいよいよ最高潮に達してしまう。
「何突っ立ってんだよ。座れ」
「は、はい…」
ソファーに腰を下ろすと落ち着きなくキョロキョロと視線をさ迷わせてしまう。
無駄な物が何もなくて綺麗に片付いてる部屋は殺風景とはちょっと違くて…生活感がないっていうのかな。
「ほら、飲め」
差し出されたのは温かいココア。
一口飲むと甘い味とその温かかさがホッとさせてくれて、少し落ち着く事が出来た。
「オーナー、ご迷惑おかけしてすみません…」
「迷惑だなんて思ってねぇよ。つまんねー事言ってないで風呂にでも入ってこい」
「でも…」
「これから俺は一度店に行かなくちゃいけねぇから、自由にしてろ」
「…ありがとうございます」
オーナーは優しく微笑むと、部屋を出ていった。
「……ふぅっ」
私は小さなため息をつくとココアをゆっくりと飲む。
ストーカーか…。
オーナーが駆け付けてくれるまでの間、本当に生きた心地がしなかった。
どうして私がこんなめに…と頭を抱え込んでうずくまる。
ふと総司の事が頭をよぎり、携帯を開いて受信メールを見ていく。
総司からのメールは首筋にキスマークを見つけた時に約束したメール以降入ってなくて…。
「連絡くれるのは…やりたい時だけ…なんだね……」
と改めてセフレ扱いな自分に苦笑いを浮かべた。
ココアを飲み干すと私はオーナーに言われた通りにお風呂に入らせて貰おうと思い、使ったカップをキッチンに置こうとしたらシンクの上にはココアの粉が入った袋が出しっぱなしになってて。
よく見ると袋の中身の粉がだいぶ減っているのが見た目からわかった。
(オーナーもココア飲むのかな?)
大人の男!って雰囲気のオーナーが甘いココア飲む姿を想像して思わず私は吹き出してしまうのだった。