或る愛の物語
□壊れた日常と心
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翌日、お店が閉店してからスタッフルームで斎藤店長に例の手紙を見せていた。
斎藤店長は元々オーナーの本職である不動産会社に勤務していたけど、このお店を開店させるにあたってオーナーが絶大なる信頼を寄せている斎藤店長にお店を任せたいと頼まれたらしい。
接客業に向かないんじゃないかと言うくらい厳しい顔つきだけど、何故かお客様にも人気があり、その真面目さからお店の女の子からの相談にも真剣にのってくれるのだ。
「…これはどこにあったんだ」
「うちのポストに直接投函されてました…」
店長は難しい顔をして手紙を読み、視線は手紙に向けたまま私に問いかける。
「……あの客か?」
例のお客の事情を知っている店長はすぐに察してくれたみたいで。
「たぶん…。それ意外心当たりがありません」
私が俯きがちに答えると、土方オーナーがスタッフルームに入ってきた。
「なんだ奈理子。まだいたのか」
お疲れ様ですと挨拶すると斎藤店長が「オーナー、これを」と例の手紙を差し出した。
オーナーが手紙に目を通すとみるみるうちに眉間にシワがよっていく。
「昨夜奈理子さんの家に消印なしで届けられたそうです」
「何?じゃあ直接投函されたのか」
私がコクリと頷くと土方オーナーはまた難しい顔をして手紙に視線をうつす。
「オーナー。この手紙の差出人には少々心当たりがあります」
斎藤店長がそう切り出すと、その客の事をオーナーに説明してくれた。
「…そうか」
短く答えたオーナーが手紙を斎藤店長に手渡すと私を見る。
「今夜は俺が送っていってやる。昨日の今日だ。何かあるかもしれねぇ」
「えっ!オーナーがですか!?」
思わぬ申し出に私を目を見開く。
「店の女を守るのも俺の仕事だ。早く支度しろ」
私は頷くと慌てて帰り支度をはじめた。
店の前に左ハンドルのドイツ車が止まり、私は恐る恐る助手席に乗り込むと、オーナーは車を発進させる。
「道案内頼むぞ」
「はい」
チラリとオーナーを見ると端正な顔立ちについ見とれそうになる。
斎藤店長もかなりイケメンだし、たくさんの女の子に恋心抱かれてそう。
そんな事を考えながら道案内していくと、私のアパートまですぐ到着してしまった。
「一応俺も部屋の前まで行くぞ」
私達は一緒に部屋の前に行くと、目に写った光景にバッグを取り落とした。
ドアに得体の知れない白い液体がかけられ、ポストに手紙がはさまっている。
オーナーが手紙を取り中を確認すると舌打ちをした。
「…変態野郎が!」
私はガクガクと震える体で立ち尽くしてしまい、言葉すら発する事も出来なくて…。
ドアにかけられた白い液体が何なのか考えたくもなくて、胃の中から込み上げるものを必死に堪えていた。