或る愛の物語
□垣間見えた境界線
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オーナーとはたまに食事したり泊まったりしている関係を続けている。
でも、だからと言って付き合ってくれと言われたわけでもなく本当に秘密の関係というか…。
「おい、聞いてるのか?」
私の1番の太客でお店1の常連客でもある芹沢さんの苛立った声で接客中だった事を思い出した。
「ごめんなさい、芹沢さん。ちょっとボンヤリしちゃってたみたい」
「ふん。俺を接客中にボケッとしたうえにそんな事を言えるのはお前だけだぞ」
芹沢さんは気難しい所があるけど、臆さず接すればちゃんと応えてくれる人だ。
まぁ…言葉使いも女の子に対する態度も横暴だから萎縮しちゃうときもあるけどね。
「男のことを考えてたな?」
いきなりズバリと言い当てられてしまい芹沢さんを見つめると、豪快に笑った後に手にしていた扇子を私の顎に添え、そのまま上に向かせる。
「当たりのようだな。俺といる時に他の男の事を考えるとは本当にいい度胸だ」
芹沢さんは楽しげに笑うと、チラリと視線を横に向ける。
私も向けられた視線の方を見てみたら、斎藤店長が尖い目つきでこちらを見ていた。
「ふっ、はははははは」
豪快に笑いだした芹沢さんはグラスに残っていたお酒を一気に煽ぐと私に空いたグラスを渡す。
それを受け取り新たにお酒を作っていると珍しくフロアにいたオーナーを見つけ芹沢さんはフンと鼻を鳴らした。
「おい。まさかとは思うがお前は色管云々はないだろうな」
「私が?お客様を?そんな器用な事私が出来ないって事は芹沢さんが1番よくわかってらっしゃるんじゃないですか」
クスクス笑いながら作ったお酒を芹沢さんに渡すと芹沢さんは視線をオーナーに向けたまま「そうじゃない」と言うとグラスに口をつける。
何のことだろう?と芹沢さんの言葉の続きを待っていると、意外な事を話し出した。