硝子の物語(連載)
□日が当たるところ
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始まりは、いつも
洗面台の鏡を見ながら、締めなれたネクタイをキュッと締め、両手で頬を力強く叩き、笑顔を作る。
『ルフィは、笑ってる方がずっと似合ってるよ…−』
これは、一日の始まりのおまじない。
「…ちゃんと笑えてる、かな…?」
ぽつりと呟いて、俺は洗面所を後にする。
廊下を一直線に歩き、突きあたりまで来ると、そっとリビングの扉を開けて、ソファに座っているエースに、「行ってくる」と、声をかけた。
背中を向けて、玄関に向かおうとした時、腕をグイッと引っ張られて、思わず声が漏れ出る。
「あ、ごめんルフィ、鞄忘れてっから…」
エースはすまなそうに、倒れかけた俺の体を押し上げ、よれよれのスクールバッグを前に出した。
「悪ぃ、エース、また忘れるところだった」
「…たく、お前は何しに学校行ってんだよ」
呆れ顔で、ため息をつくエースの手からスクールバッグを受け取り、しししっとお得意の笑顔を見せた。
そして、玄関に進み、銀ラックに置いてある、あどが潰れたローファーを無造作に取り出し、足をいれる。
「じゃ、今度こそ行ってくる!」
扉を開け放ち、勢いよく玄関を飛び出す俺に向かって、エースは扉からちょこんと顔を出し、「怪我すんじゃねぇーぞー!」と叫んだ。
「おぅ!」
元気に返事を返して、俺は学校へと向かった。