硝子の物語

□『すき』、と
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−…



今夜は俺からキッドを誘った。

名も知らない街の港に船を停泊させ、船員が眠ったことを確認し、甲板に彼と2人。

ただそれだけで胸がときめく。

ただそれだけで胸が軋みをあげる。

彼の側にいることが、何より嬉しく、何よりも辛い。

俺はキッドの隣にちょこんと座り、どちらからともなく、誘われるように口付けを交わす。

うっすらと開けた瞳が彼の赤毛を捉える。

彼のこの特徴的な逆立った毛並みが、何となく好きだ。

ぼぅっとそんなことを考えていると、いつの間にか、キッドの手のひらが、器用に俺のベストを脱がせていることに気がついた。

−こんな時ばかり、優しいキスをするんだな…

事が終わればそれっきり

そんな、体だけの関係だと、キッドは割り切っている。


なら、なんで?


最中でも、こんな優しく触るなよ…


これ以上好きに、させないでくれ…


キッドと合う度、心の内に溜まってゆくモヤモヤが俺の頭を浸食する。

思考が上手く回らない。

たまらずこみ上げてくる涙を、必死に止めようとするが、そんなのできっこなくて

ただただ頬に伝う、何の意味も持たない涙を無心で感じていた。

そんな俺に気づきながらも、キッドは性処理に励む。

本当、なんでこんな奴好きになったかわからない。


でも、もう 遅いんだ

何もかも、 手遅れで…


キッドの指先が俺の蕾を刺激する。

「っ、」

ピクリと反応したのを見届けると、蕾の奥底に指を差し込んできた。

襞が擦れ、腸壁の粘着質な音が耳に届く。

「…んっ、あっ、ぁっ」

キッドの肩を正面から両手で鷲掴みし、重たい瞼を押し上げながら、快感に染まりゆく彼の姿をこの目に焼き付ける。


−これが、最後 だから…

キッド、

俺のこと、愛してないんだろ?

キッド、

全部俺の我が儘だって、わかってるけど

だけど、やっぱり辛いんだよ


…ただ、愛して欲しかっただけなのに

キッドの陰茎が俺の蕾に収納されたのを見計らい、肩に乗せていた両手をキッドの首に移動させる。

緩やかに、優しく絡め

「…キッド、好きだっ」

吐き捨てるようにそう告げて、手のひらに力を込めた。

「…ル、フィ」

掠れたキッドの声。

流れる涙は、更に激しさを増す。

「あっ、ふ…ぇっ、ぅっ、…きっ、キッド、」

愛しい

だから、辛い

矛盾してる、俺の愛情も

彼の、言動も

キッドは抵抗することなく、ゆっくり目を瞑る。

「愛し、ちゃ いけね、…んだよ」

途切れ途切れに紡がれる彼の言葉。

「俺たち、は 敵、だ…からっ」


敵、だから…


だから、冷たくしたのか?

俺がこれ以上、キッドを好きにならないように

だから、仕向けたのか?

彼はきっと、こうなることを予測していた…

キッドの首筋から手のひらを解く。


「殺さねーのかよ、ルフィ…」

キッドが俺の髪を撫でる。

愛おしそうな、そんな手つきで。

差し込まれたままの陰茎なんて考えてすらいなくって。

俺はそのまま、なだれ込むように彼の胸に身を任せた。

「殺したい、キッド、殺したい程、好きだから、…」

だから殺せはしないんだよ…

その言葉を飲み込んで、俺はキッドの鼓動の音を耳に


あとどれだけ、側に 居ることができるのかは

今はまだ、考えさせないでくれ…−
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