硝子の物語
□渇きの砂
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それが合図で、軽く唇を合わせる。
思ったよりも、柔らかくて、火傷するくらい熱く燃えていて、ほんのり甘く香ったソレ。
「はっぁ…」
唇を離すと、ルフィは物足りなさそうに甘く吐息を吐き、じっと俺を見つめてきた。
「…愛情なんかじゃない」
ぽつりとルフィは俺の耳元に唇を近付けてそう言った。
「それより、もっと、…」
それ以上の言葉を紡がせる前に、さらに深い口付けを交わす。
もう、儀式みたいに、何度も何度も
執拗に、彼から言葉を奪うように
この乾いた砂漠の中に
溺れていたのは、俺のほうだった
気づかないうちに、溺れていたんだ
「ワニ、ワニ、…」
必死に手を伸ばす、その細い腕を鷲掴みにし、荒々しく貪るようにキスを浴びせると、ルフィは子供に戻ったように、屈託なく笑う。
これは、母性に近いものなのか。
黒髪を指に絡ませて撫でてやれば、猫みたいにゴロゴロ喉を鳴らしながら甘えてくる。
でも、これは、愛情なんかじゃない。
『愛情なんかじゃない…―』
『それより、もっと…―』
もっと、重くて
ずっと深いもの…―
これがもし愛というものなら
乾いた砂漠の砂に
一輪の花が咲くくらいに
奇跡なんだと 笑うのならば
もう、その奇跡は、とうの昔に渇いてしまったと
俺は お前に
笑いかける
―…。