硝子の物語

□渇きの砂
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これがもし愛というものなら

乾いた砂漠の砂に

一輪の花が咲くくらいに

奇跡なんだと お前は 笑う



―…



アラバスタでのルフィとの対決に、俺は負けた。

そこで、あいつと辿ったのこの物語ももう終わりで、会うこともないと思っていたのだが…

「おい、なんでいるんだ、麦わらぁ」

麦わら帽子を顔に乗せ、すやすや眠っている様子のあいつ。

最近は、半同棲みたいな感じで、あいつは俺の家に入り浸っている。

何が面白くて、ここに来るのか、あいつの心理は掴めない。

「聞いてんのかよ、コラ」

強引に麦わら帽子を顔から引き剥がすと、目を眠たそうに擦りながら、ゆっくり俺に手を伸ばしてきた。

「帽子、返せ」

おいおい、寝起きの第一声がソレかよ。

呆れて、一つため息を吐き、人差指で帽子をクルクル回した。

「お前が帰るっていうんなら、返してやってもいいぜ?」

ルフィは、小首を傾げて、俺の瞳を見つめた。

そのでけー黒眼に、やたら心臓が激しく脈を打って、耳元がざわつく。

「…じゃあ、俺が帰るときに返してくれよ」

そう言って、ルフィはまた俺のベッドにゴロンと横たわり、寝た。

「…いい加減にしろ、殺すぞ」

「お前じゃ俺は倒せねぇよ…」

むにゃむにゃと口をくぐもらせ、半分寝ながらルフィは言った。

「てめっ…」

怒りで、青筋がたって、手のあたりから砂がサラサラと沸き立ってくる。

いっそのこと、今ここで殺してやろうか。

そう思いながら、横たわっているルフィの首筋に掌を押しつけようとした時…

「殺せないだろ?」

嫌な、大人みたいな艶かしい笑い方をしながら、ゆっくりとルフィはそう告げた。

掌が、ざわつく。

「…狸寝入りしやがって。アホ癖ぇ」

首元まで伸ばした腕を、そっと引っこめると、そいつは笑いながら上半身を起こした。

「なぁ、ワニ、質問に答えろよ」

今までのガキ臭い雰囲気は消え去っていて、その大人びた視線が、俺の心を掻き乱す。

「何の質問だよ」

いたって冷静を装いつつ、質問を返してみた。

「殺せねぇだろ?って、質問」

そう言いながら、ベッドから飛び降り、ゆっくりこっちに近づいてくる。

「俺が弱いから殺せないとでも言いたいのか?」

質問の意図が違うことにすでに察しはついていたが、気づかないふりをして、ルフィを睨む。

すると、はははっと、乾いた笑い声を発しながら、俺の肩に腕をまわした。

「話ずらしたろ?」

「何のことだよ」

意外に鈍感じゃないなと思いながら、回された腕を振りほどくことなく、直立したまま俺は微動だにしなかった。

「…弱いとか、強いとか、そんなんじゃなくてさ、」

嫌に大人びた、

アイツの



「ワニ、」

耳元で囁き

俺の鼓膜を

甘く 震わす

「俺のこと、ちょっとは好きだろ?」

俺はそっと瞼を閉ざして、ルフィの鼓動を確かめた。

お、速ぇな。意外と。

俺の心臓は、それ以上に、…

「…好きって言ったら?」

初めて、ルフィの黒髪に、触れた気がした。

「どうにもなんねぇ」

ぼそっと呟いて、さらに密着する体。

「はっ、じゃあ、そのどうにもなんねぇことをどうしろって言うんだよ」

そっとルフィの頬に触れて、唇を辿る。

「どうもしなくていいよ」

小さく答えて、ルフィは目を閉じた。
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