夢語の間
□スプリングドラッグ
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大阪から東京へ向かう新幹線の中で、俺はさっき楽屋で又吉に言いかけたことを思い出した。
あの日のこと又吉は覚えているだろうか…
思い切って聞いてみようか!!
「なぁ、まっ……………。」
思わず言いかけてやめた。
だって俺の横でスヤスヤ眠ってる又吉を起こすのもなんだか気が引けたから。
しかもこんな時まで本抱いて寝てるって
やっぱコイツ気持ちワルッ。
あれ、マネージャーも寝てるし…。
なんだか口角が上がってきて
俺はくすりと笑った。
「一人笑いとか、一番気持ち悪いのは俺か…」
「ホンマや」
ぼそりとつぶやいたその声は又吉だった。
そしてその声に俺はビビッた。
「起きてたのかよ!!」
「は?俺寝てないし、てかずっと起きてた。」
「えッ!!だって気持ち良さそうに寝てたじゃん!」
「いやいや、太宰治の気持ちになって色々妄想してただけやし。」
呆気にとられた俺は言葉が出なかった。
なんか気ぃつかって損したな…。
結局、あのことを聞けず終いで
次の仕事に入った。
心に空いた穴は、みるみる広がっていくようだ。