夢語の間

□スプリングドラッグ
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翌日の朝の晴天は
俺の目を潰しそうなくらい眩しかった。

俺は、伊達眼鏡をかけ帽子を深くかぶり、
電車に乗り込み仕事場へ向かった。


この電車は俺にとって大事な思い出がある場所だ。
前の相方と解散し、又吉とコンビを組んだとき、
この電車の中で俺らは約束したんだ。

同じ過ちを犯さないように、
次こそは売れてやるって言ってたっけ…。


―七年前―

又吉とコンビを組んでまもなく
東京での初仕事のため、
俺達は電車に乗り込んだ。
そして俺は口を開いた。

「なぁ又吉、俺ら次こそは売れるかな。」

「どうやろ…。もしダメだったら、二人で京都で静かに暮らそか(笑)」

「え!?嘘だろー。あきらめんの早ッ!!」

「ははは…。大丈夫だって、なんか俺らだったら売れる気がする。」


「……。俺さ、決めてるんだ。もう相方失うのは嫌だから、
今度こそ絶対、売れてやるんだって…。
もぅ二度とあんな思いしたくないんだよっ!!」



思わぬ力説で自分の言葉に涙が溢れそうになった。
そして又吉は俯いたまま、
だまってしまった。


引いたかな…。
そうだよな、この仕事に一生かけてんの俺ぐらいだよな。
もぅ解散の危機か?はは…


「なぁ、綾部。

ずっと側におるから安心しろゃ。

お前が死ぬまで、一生隣でボケ続けたる!
だから絶対2人で売れような!

約束だからな!!!」

又吉の言葉は妙に温かくて
安心した俺は涙が溢れた。
泣いたのがバレないように
下を向いた俺の肩に
又吉の手が優しく乗っかった。

「ありがと…………。」

電車に揺られながら、俺の顔は綻んだ。

他の乗客なんか見えなかった。
ただ電車の中は俺達だけの世界になっていたから…。


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