庭球妄想

□すきなこえ
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好きなんだ、あなたの声が。


すきなこえ


すーっと胸に染み込む、あなたの声
低いような高いような、あなたの声
いつもは聞いていたいんだけど…今日はちょっと辛い


全国大会、氷帝対青学の試合は、青学の勝利によって幕を閉じた。
試合後、息を切らして汗が渇くんじゃないかと思うほどに憔悴仕切った日吉は、敗北が悔しくて悔しくて涙を零した。

泣くものかと思えば思うほど涙が溢れ、誰にもそれを気付かれたくなくて、会場から離れた水道で顔を洗う。

冷たい水に頭を突っ込み、髪を濡らしても涙は止まらず、ずぶ濡れになりながら息を吐いていると、名を呼ばれた。
「日吉…」
できれば、泣いているところを一番見られたくなかった人の声に振り向かず、濡れた髪を掻き上げる。
「何か…用ですか」
「いや、試合終わってから姿が見えなかったから…こんな遠くにいるとは予想外だったけど」
振り向いて相手を見れば、いつもの野暮ったい眼鏡に、見上げなければ拝めない程高い位置にある顔。
青学のデーターマン乾貞治だ。

「いいんですか、自分の学校戻んなくて」
「少しくらいいいだろ…恋人に会いにきたんだから」
臆面もなくさらっと言われた言葉に、日吉の鼓動は高鳴った。
「ふん…」
照れ隠しに鼻を慣らしてタオルで乱暴に顔を拭く。
「なぁ…貴方に情けないところ見られたくないからどっか行ってくださいよ」
涙は止まったが、赤くなった目は誤魔化せずにタオルで顔を覆ったまま、ぶっきらぼうに言葉を投げ付ける。
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