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□以心不伝心
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「台風のため、ただいま煙突のネットワークが大変混雑しています。すでに回路には大きな混乱を来たしています」
 煙突につながった暖炉の中から響いてくる声に、セブルスとシリウスの反応はなかった。
 わずかに灰が残る暖炉にはひっきりなしにフルーパウダーの旅行者たちが姿を現した。
「風の音にも負けないように行き先をはっきり告げてください」
 びしょぬれの来訪者がたらした水滴で、暖炉のまわりに水たまりができている。

 足の速い台風が接近中のグリモールド・プレイスに人の歩く姿はない。
 どこの家も固く閉じた扉や窓が風に揺らされて、大きな台風に怯えるようにがたがたと震えた。
 窓のうちからこわごわ外をのぞく人々には強力な魔法の守りで見えなくとも、ブラック家の屋敷はグリモールド・プレイスの十二番地に建っていた。
「暴風雨からも守ってくれたら良かったのに」
 屋敷しもべ妖精の様子を見てきたリーマスがどんよりした居間の中に足を踏み入れた時、シリウスが呟いた。
 ブラック家の伝統ある屋敷は歴史の重みで傾いている。天井からぱらぱらと埃か石くずのようなものが強い風が吹くたび落ちてきた。
「それは望みすぎだよ」
 リーマスは小春日和にテラスにお茶会の準備をするように、古めかしいテーブルにポットを置き楽しげにカップを並べた。
「また! 砂糖の瓶は2つもいらないだろう」
 2つあったほうが嬉しいよ、とシリウスが納得できない答えを返して、リーマスはセブルスの後ろ姿に目をとめた。
「セブルスもお茶をどうかな? 珍しいね、いつもは会議が終わるとすぐ帰っていたのに」
 絶えることなく雨が流れ落ちる窓の一点から視線を外さないまま、セブルスは口を開こうとした。
 とたん、シリウスが鼻で笑う気配がしてセブルスのこめかみがぴくりと動いた。

「ん? ああ、セブルスは姿現しが苦手だったかな」
「苦手なわけではない。好きではないだけだ」
 風や家のあちこちがきしむ音の中で、セブルスの声は不思議と耳に届く。
「子供の言い草だな」
 一蹴して、シリウスは砂糖の瓶をひとつ抱えた。
「次の買出しまでこれはとっておくんだ。あいつ、しもべ妖精、この頃働きが悪くなって困る」
「しもべ妖精といえど同情するな。こんな主人を持てば、この世の苦しみを背負ったも同然」
 セブルスが言い放ち、声のした方をシリウスがありったけの憎しみをこめて見つめた。
「働きもせず、一日中悪態をつくしもべ妖精がなんだって?」
 稲光が一時照らしたセブルスの黒いローブと黒髪の頭が、わずかにシリウスのほうへ向いた。
 立ち続けの体勢を整えるセブルスの靴音と雷鳴が重なる。その間にシリウスの顔の青筋の数が増えた。
「ご主人自ら買って来られてはどうか。貴君は台風がお好きだろう。出て行って泥遊びでもすればさぞかし楽しかろうな」
 リーマスが笑い出した。シリウスの怒りに油を注ぐ。
「あー大きい声はやめてくれよ、風で十分うるさいんだから。ジェームズがこんな台風の日に飛び出していったことがあったよね。君も面白がってついていった」
 リーマスの明るい声に根負けして、シリウスは苦笑した。
「あったか……そんなこと」
「シリウスは忘れたかもしれない。でも学校中大騒ぎだったんだ。セブルスは覚えていないかい?」
 ほほえむリーマスに紅茶のカップとソーサーを差し出されて、セブルスは渋面のまま、長いテーブルのはしの席に腰を落ちつけた。
「砂糖はいい」
 テーブルのうえをすべる砂糖の瓶が、ふたをがちゃりと言わせリーマスのもとへ引き返す。
「嵐の中を箒で飛んだ者たちはいた。まったく勇敢なことで、石塔にもひるまずぶつかっていったな。ふん、実に、いい笑い話だ」
 リーマスは目を細めて相づちを打った。
「あのケガはひどかったなあ。クィディッチの試合当日も天気が悪いようなら予行練習になるって、ジェームズは出て行ったんだっけ」
 セブルスは紅茶を含み、香りの良さを味わったが、またもジェームズの名を耳にして苦い顔をした。
「ジェームズを助けたのはセブルスだった」
 リーマスが言い、シリウスが奇妙な表情をした。
 セブルスは表情を消したまま口をむすんだ。
「その話を聞かせてくれよ」
 シリウスがリーマスへ向けて言い、窓に四角く縁取られた外の景色を見た。




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