text

□虹のたもと
1ページ/2ページ




――どこにいても思い出す景色をそのままに。
いつ振り返っても、迎える手があれば笑っていられる…と思っていた。




そこには大きな呼び声とともに手を振るジェームズがいた。
シリウスが手を上げるのを見て彼は眉を上げ問いかけた。
「指、どうしたんだよ」
「切ったんだ」
「にしても大げさじゃないか」
指先に、第二関節のあたりまで白い包帯がぐるぐる。
左手の中指と薬指に巻きついているそれが、自炊の真似ごとに失敗した彼の姿を思い浮かばせる。
「あれからちゃんと片付いたか? 最近何してた? もうあの借家に慣れた?」
「一度に訊くなよ。荷物だってなんだってジェームズは引っかきまわしただけだろ」
「そうだっけ」
ジェームズ、と太陽の方角から呼ぶ声がする。
「お皿を並べるのを手伝ってくれる?」
「あ、はいはい」
野外に据えられたテーブルの上にグリーンのクロスがひかれている。
木目のボウルが載り大皿はまっさらな白で、空の器にはさんさんと日光が盛られている。 


昼食のあともシリウスとジェームズはポッター家で午後の時間を過ごした。
ジェームズの母親がお茶を淹れ、父親はシリウスを向かいのソファに座らせ、他愛のない噂話をしたがった。
夕暮れが近づいて、ジェームズはシリウスを外へ連れ出した。


家のわきの花壇にはサルビアが植えられていていくつも花をつけている。
ジェームズが手を伸ばし赤く咲いていた花を摘んだ。花のつけ根を吸うと、草花らしい苦みの中に蜜の甘みがさしてきた。
その姿を探すとシリウスは歩いている。染みついた姿勢の良さはそのまま。
あの肩を談話室や教室でこづくと、可笑しそうにイスの背にもたれ頭をかしげて文句をいった。




次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ