text

□繋いだ指先
1ページ/1ページ



入り口は狭くて首をまげなくては足を踏み入れられなかった。
通路の穴の中は薄暗くどこまで道が続いているのか見通せないけれど、リーマス・ルーピンがここへ入っていったのは確かなことだった。
頭まで入り口をくぐったところで靴が不安定な足元にすべり、いくらか平らになった穴の地面まですべり落ちて尻を着いた。
振り返って見上げると遠くなった夜空に暴れ柳は大人しく、あたりにあふれる月光に不気味な節こぶだらけの枝ぶりを浮かびあがらせている。


「感謝しろよ、スネイプ……じゃあな」
土を蹴る音がわずかにして、シリウスが去る。
しゃくに障る笑みを含ませにやりと笑っている顔が浮かび、首を振ってそれを振り払った。
両足で立ったセブルスが前を見つめるとわずかな光明が行く先を照らしている。ローブの土を手で落としていてその音に気づいた。
息をのみ、近づくにつれて確信を増すそれは低いうなり声で地底を這うように続き、犬の威嚇する吠え声のように響いた。
次第にはげしく物を打つ音が重なって聴こえ、合間に高い叫び声が交じった。
セブルスは足を止め思わず息を詰めて、自分とその先に待つもののほか、誰もいない通路をゆっくり見回した。前方にとうとう見えてきた行き止まりに目を凝らして見入った。扉は幾重にも補修がされた跡が遠目にも判別できる。


この満月の夜にある程度つけてきた憶測が真実になったことを予感して、早まる動悸を静めようと額に手を当てた。浅い呼吸は落ち着きを取り戻せず、額に汗が滲んでくるばかり。
震えて止まっていた足を踏み出そうとして伏せていた顔を上げた時だった。これまでとは違う音が割り込んできてセブルスの意識を一息に引き戻した。
「間に合った……!」
その人声と状況とがうまくつながらず、振り返るか思案していた間に大またに距離をつめられ、セブルスは背後から肩をつかまれた。
「だめだ、それ以上行くな」
強い声が言った。セブルスは振り返り、後ろに立つ声の主がジェームズだと見とめた。
反射的ににらみつけ、肩をつかまれた手を振り払った。
ジェームズは引き下がらずなおセブルスの腕をつかみ、セブルスが叩き落とすとその手を強く引っ張り、指が抜けるかと思うほどきつくつかみ一人歩きだした。無理矢理もときた道の方へ引っ張られ、引きずられるようにセブルスも足を前へ進めた。
「……放せ!」
セブルスが自由になる左手で杖のあるポケットを探ろうとすると、
「やめてくれ」
先回りしてジェームズが釘を刺す。
「引き返すんだ、スネイプ」

にらみ上げるセブルスはジェームズの姿や表情に憔悴した様子を見て取ると、屈しまいという反感の意思が萎えていってしまった。力が抜けて左手をわきへ垂らすと、近くでほっと息をもらした気配がする。
さあ、とジェームズが再度促し、小さな声で加えてなにかを呟いた。眉をひそめてジェームズの表情をうかがって、どうやら謝罪のことばであるらしいことを察してセブルスは胸が悪くなった。

「どういうつもりだ」
「黙っていてくれ」
驚くほど青ざめていて常にない顔色の悪さが、お互いへの情けを生んで会話を続けさせる。
「このこと」
「なにを、」
一拍遅れて、知らないふりを決めようと返していた。
「頼むから……」

返答を迷い、セブルスは口を開かなかった。
指先を引っ張る手は冷たいくせに、顔は青いくせに、ジェームズは手のひらにも顔にも汗を浮かべていた。
いい気味だと感じて、セブルスは瞼を閉じた。




繋いだ指先
title:ハンドさま





[
戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ