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□黒犬スナッフルズの冒険
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1.犬、ネズミ、ドラコ
黒犬のスナッフルズは、ハリーポッターのことが大好きです。
ハリーが1歳の誕生日に、ハリーのお父さんのジェームズが連れてきてハリーの家にやってきました。そのときからポッター家に仲間入りをしたのです。
おしめをつけてジェームズに抱きかかえられたハリーが、スナッフルズの小さなまるい目を見つめて手を伸ばすと、スナッフルズはやわらかい舌でぺろっとなめ、たちまちハリーは笑いだしました。
その瞬間ふたりは意気投合したのです。
ハリーのお母さんのリリーが、やさしい声で
「これで家族が4人になったわね」
というのに、小さな仔犬のスナッフルズは満足そうにクウンと鼻を鳴らしました。
スナッフルズは、ジェームズもリリーも、それからしばしばこの家を訪れるリーマスのことも好きでしたが、ハリーがいちばん好きでした。
スナッフルズの散歩を忘れたジェームズにはしばしば吠えてみせたり、後ろから飛びかかったりと、さながら悪友のようにも見えましたが、ハリーとはよい友達になって、ハリーのそばで、しっぽを体に巻きつけ、いつも見守るようにしてすわっていました。
ハリーポッターも、スナッフルズのことが大好きです。
物心ついたときには、スナッフルズと庭をころげまわっていました。
ハリーはぐんぐん背が伸びましたが、スナッフルズはそれを上回ってどんどん大きくなりました。
スナッフルズがハリーのうでの中に収まっていられたのはほんのわずかの短い時間で、両親は、ハリーとスナッフルズのけんかを止めようと走ってきたこともありました。
けれどスナッフルズがハリーには決して牙をたてないことを知って、ほっと胸をなでおろし、それからは好きにさせておくことにしました。
その日ハリーが学校に出かけていくのをいつものようにスナッフルズは見送りました。
ハリーのそばへ飛んでいこうとするスナッフルズを、リリーは苦労して引き戻さなければなりませんでした。
耳をたれたスナッフルズが庭をのっしのっしと歩いていると、リリーの菜園を荒らして、にんじんをかじっているネズミを見つけました。
スナッフルズがあまりに吼えるようなのでリリーが部屋着で庭に出たときには、大きな黒犬の姿はすでにどこにも見当たりませんでした。
夢中になってネズミを追っていて、スナッフルズにはほかのことが何ひとつ見えなくなっていました。
道の向こう側から小学校へ急ぐ子どもの下をネズミがすり抜けていき、子どもが息を飲んで驚愕しているのにも気づかずに、スナッフルズは恐怖にかたまっている子どもに正面からまともにぶつかり、子どもははじき飛ばされてしまいました。
スナッフルズは足をとめ、道のわきにひっくりかえった子どものもとにかけつけて、鼻を近づけ、頭を子どもの腹のしたに押しこんで、あおむけになるようにひっくり返しました。
子どもは気をとり戻したようにすっくと起きあがり、スナッフルズをあらんかぎりの憎しみをこめてにらみつけました。
よりによってその子どもの被害者はマルフォイでした。幼稚園の発表会でハリーの足を引っかけたいじわるな子であることをもちろんスナッフルズは知りませんでした。
マルフォイはけわしい目つきですばやく杖を取りだし、おおげさな振りをしてからスナッフルズに向かって突きつけました。
「おまえみたいな犬は、呪われてしまえばいい!」
呪いの言葉とともにマルフォイの杖の先から何かが噴きだしたかと思うと……スナッフルズのからだは、ブリキでできたおもちゃに変身していました。
マルフォイは術の効果を確かめることなく、とっくに走り去っていました。遅刻したことが父親に知れたらとんでもないことになるからです。
小学校から帰ったハリーは、スナッフルズの出迎えがないことに首をかしげていました。
「ハリーが帰る時間までどこかへ行っているなんて珍しいわよね。晩ごはんまでには帰ってくるでしょう」
日が落ちて、ジェームズが帰宅するにいたって、とうとうハリーは泣きだしました。
「変わった生き物でも見つけて追いかけていったんじゃないか? よし、父さんが探してこよう」
「ぼくも!ぼくも行く!」
リリーにおしとどめられ、ハリーはしぶしぶ家の中で待っていることになりました。
ジェームズはくたびれていましたが、スナッフルズとハリーのために、杖に明かりをともして、ハリーを笑顔で力づけ、出かけていきました。