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□花冠と恋心
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まぶしく白く、それは日の光を吸い込んであたたかそうに見えた。
だから思わず手をのばしてしまった。
ジェームズとシリウスが気乗りのしない授業をさぼり、草のうえに寝ころんでいた。
仰向けに寝て雲の形が変わるのを見ていたシリウスが、かたわらでうつ伏せになり、手を動かしているジェームズに言った。
「さっきから何してるんだ?」
「いやー、僕って器用でしょ」
ジェームズは地面に花を咲かせたシロツメクサをちぎって、せっせとかんむりを編んでいるところだった。
「ひまな奴だなあ。僕なんか作りかたも知らないよ」
「女の子にならった。シリウスなら誰でも教えてくれるさ。入学早々、おまえのうわさで持ちきりだから」
シリウスはジェームズにじろりと視線を移して、ぼそっとつぶやいた。
「なんでそんなことがわかる?」
授業が終了して、次の授業の教室へ移動する生徒たちが横切りはじめた。
「よし、次の授業へ出るか」
「うん」
ローブについた草をはらって、ふたりが立ち上がった。
「それ、完成品、どうすんだ?」
「ああ――」
シロツメクサの花かんむりを手にして、しばしジェームズはつっ立っていた。
「ねえ、君!」
振り向いた女の子に、にっこり笑って、ジェームズは花かんむりを差し出した。
「ちょうど出来上がったんだけど、君の赤い髪に映えると思うよ」
女の子は、ジェームズの葉っぱがついたメガネの顔と、花かんむりとを交互に見た。
何も言えないままで、目もとを染めて受け取った。
「行こう」
シリウスが呼ぶ声で、ジェームズは女の子に背中を向けた。
「ああ」
走っていくジェームズの後ろ姿を、女の子の明るい緑の目が追っていた。
「ぼさぼさの黒髪にメガネのグリフィンドール生?」
「ええ!」
「それにハンサムな男の子がとなりにいたの?」
「そうよ」
「じゃあ、リリー、きっとジェームズ・ポッターよ。あの授業さぼってたみたいだし。同じ一年だね」
女子寮の寝室のベッドの上で、リリーは友達の女の子と、真剣な顔をつき合わせていた。
リリーのパジャマのひざには、黄金の光が降っていた昼の野の、真白い花かんむりがあった。
枯れてしまわないように呪文をかけてある花かんむりに目を落として、リリーは初めてその男の子の名を口にした。
「ジェームズ――ジェームズ・ポッター」
「リリー、その子のこと好きになっちゃったの?」
「……えっ。そんなんじゃないわ……」
「あれえー?……ま、いいわ。けどシリウスもいっしょだったんでしょ!かっこいいよねーシリウス!」
友達の女の子の手が花かんむりにのびて、リリーの頭の上にそれをのせた。
リリーが嬉しそうにほほえんだ顔をその友人だけがかわいいな、と思い見ていた。
同じ学年で同じグリフィンドール寮に属するリリーとジェームズは、毎日の授業もほぼ同じものを受けていた。
両親ともがマグルのリリーは、新しい環境に慣れるのに目が回りそうになっていた。まだ入学して日が浅いこともあり、リリーが注意して教室を見回して、ようやく黒い髪がつんつん立った後ろ頭を見い出すことができたのだった。
ジェームズのまわりには、いつも誰かがいた。たいていはシリウスと一緒で、笑いあったり、大声でなにかを話したかと思えば、声をひそめてどこかへ消えたりもする。
ジェームズのメガネの奥のはしばみ色の目は、いつでも楽しそうな光が彩り、唇は笑みを結んでいた。
見ているほうまで心がはずむような、明るい光景があった。