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□孤独
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「よーし、晴れたな!」
 雲のひとつも見当たらない空を仰いで、ロンがからりとした笑顔で言った。
「のんきなこと言ってないで。荷物を運ぶのを手伝ってくれるー?」
 ロンはハーマイオニーのもとに駆けつけて、彼女がぶるぶる腕を震わせながら、頭の高さを越えて積みあがった本の束をすっかりとりあげた。
「これでいいかな」
「ええ、ありがとう」
 ハーマイオニーはにっこりした笑顔をロンに向けた。
「だけど、なんでこんなこと。シリウスが魔法を使っちゃいけないのか?」
「あら、こういうことはね、みんなで協力してやるから楽しいんじゃない。マグル式に親睦を深めるの」
 ハーマイオニーが歌うように言った。
 こじんまりとした2階建ての家屋の大きく開かれた玄関を見やり、忙しく立ち働いているシリウスとハリーを、ハーマイオニーの目が楽しそうに追っていた。
「それにね。なるべく目立たないようにしないといけないわよ」
「そうだなあ。例の……あー……ヴォ……」
「ヴォルデモートが狙っているからね」
 ハーマイオニーは、強い日差しをあびて少し上気した頬でいたずらっぽく笑った。
 それからふぅと息をついて、目の覚めるような白さのつばの広いぼうしを目深にかぶりなおしている。
 ハーマイオニーのそうした所作が妙に大人びて見えて、ロンはあわてて、ハーマイオニーを見つめていた視線をそらせた。
「まだ荷物がこんなにあるんだ!シリウスも運び出すのを手伝ってくれよ」
 ロンは大声で呼ばわった。危なっかしく本の塔をぐらつかせながら、小走りに、シリウスとハリーがこれから暮らす家に向かった。
 若木や季節の花々が細々と盛りたてる小さな庭を足早に通り抜け、腰のたけにあるポストのかかった門をくぐり、大急ぎで家の玄関を上がった。
 シリウスは肩を過ぎるまでの長さの、鋼のような色をして、すとんと伸びた髪をざっくばらんにまとめ、萌黄色のシャツを着ていた。その表情は活力に満ちて、かつて指名手配犯として街中の壁を埋めたポスターとはまるきり別人だった。
 シリウスがロンの持っていた本の大方をひょいと持ち上げた。
「そうか。すまなかったな、手伝おう」
「荷物なんて、そんなにあったかな」
 すすや何やらで顔を黒くしたハリーが、目をしばしばさせながらシリウスの隣にならんで言った。
「モリーがいろいろ持たせたんだろう。私はその半分もいらないっていったんだ」
 ロンがしきりと口をもぐもぐしているのは、モリーがどっさり持たせたアップルパイを失敬して口につめこんだせいだった。
「あとは、グリモールドプレイスから持ってきた古い家財道具がごちゃごちゃと……」
「これ。この本。どこにやればいい?」
 訊きながら、ロンがゲップをしたので、ハリーは盛大に顔をしかめた。
「ハリー、お茶をたのむよ。大至急ね」
「あとでいいなら私がいれよう。 こっちだ、本棚は1階の……」
 廊下の奥に消えたロンとシリウスに構わず、ハリーは、広々としたリビングの端に鎮座したソファのところへ歩いていった。
 ソファのクッションに沈むまま、もたれかかって休んでいるルーピンの真っ青になった顔をのぞきこんだ。
「私のことは気にしなくていいよ」
 ぱちっとまぶたを開けたルーピンに、ハリーはいささか驚いた。



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