小話

□反魂香
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中国の古来より死者をよみがえらせる香として「反魂香」が伝わる。


「でも、ハリー……なぜその作り方が知りたいの?」
ハーマイオニーがハリーを上目遣いに見あげて、注意深くささやいた。
「ハーマイオニーの考えているとおり」
ハリーははやく問答を終わらせて一刻もはやく、目の前から消え去った人を呼び戻すためにそう言った。
「やっぱり……まさか……だめよ。本当の効果だって確かめられていないし、使った本人に幻覚をもたらすだけなのかもしれないのに」
ハーマイオニーはしどろもどろになり、最後は悲鳴に近い声をあげてハリーのローブのそでを引っ張った。
「しっ。その本を僕にも貸してくれ。作り方が載っているのか、どうなんだ?」
「危険だから禁書の棚にあるのよ。どんな作用がはたらくのか誰にもわかりはしないわ。けど、調合の仕方は載っている」
深夜の図書室の埃っぽい空気がざわりと動いた。
ハリーは強引な手でハーマイオニーから本を奪いとり、透明マントの中の杖あかりでページに目をこらした。
「死者は死者だわ。幽霊でもないかぎり、わたしたちとは共存できないの。手が届かないどこかへ去ってしまうのよ」
ハーマイオニーが高く、かすれた声で言った。
「君がそう考えるんだろう。僕は、まだつながっていると信じてる。ルーナが言ってた……みんなどこかへ隠れているんだって……」
じっとページに目を落としていて、ハリーはハーマイオニーが涙を落としたのに気づかない。
「だから見つけてあげるんだ」
シリウスが消えた日から後、ハリーは彼の死をくつがえす事実を求めて、昼も夜もなく駆け回った。その姿は見る間にやつれ、クィディッチのシーカーにしてもやせすぎ、普段の生気をうしなったようだった。
「わたしにはわからないだろうなんて思わないで。わたしだってわかることがあるわ。シリウスは、あなたをこんな風に苦しめるべきじゃなかった。あなたとずっと一緒にいてあげるべきだったの……」


ゆらりと立ち上った煙が集まると色の濃淡が生まれ、人の形があらわれてきた。
「シリウス……?」
影が頭を動かして、ハリーを振り向いた。
グレーの目をして、精悍な顔つきに垂らした鋼色の長髪。
それはまぎれもなくシリウスだった。
シリウスは、悲しそうな表情をして、ハリーに近づいてきた。
一歩、二歩。立ち止まる。
「――いけなかった?」
シリウスは答えない。ただハリーを見据えて立っている。
「悲しい――つらいの?」
そこに立っていることの確証がつかみたくて、そばに寄った。
シリウスの顔を間近に仰ぎ見て、ハリーの心も千々に破れそうだった。
「どうしてそんな顔をするの?」
ハリーはシリウスに手を伸ばして、肩に触れた。
強くつかんだ。シリウスは細めた目を少し開くが、何も言わない。
「どこにいたの、どこから帰ってきたんだよ、教えて。ずっと――どこかへ隠れていたんだ。そうでしょう」
ハリーはシリウスの体に両腕をまわして抱きしめた。
こんなに確かなものが他にあるだろうか。
けれど、その体には生物の体温が感じられなかった。
「何も言わなくたっていいよ。ここにいてくれればいい。ここにいてほしい」
ハリーはシリウスの胸に頭を押しつけて、深く息を吸った。

鼓動がきこえる――心臓が動いている。




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