小話
□陽のかがやく夜の夢
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シリウスが訝しんで問いかけても、ハリーはシリウスの腕をつかむ手をゆるめなかった。
「うん。あれ、なんだったっけ……言いたいことがあったのに」
やわらかい陽光が照りつけるなかでシリウスはバックビークのふかふかした羽毛にブラシをあてて枯れ草やほこりを取っていた。
その手をとめて、しきりに頭をひねっているハリーに言った。
「ゆっくり思い出せばいい。雨なんか降りそうにないし」
心地よさそうに目を細めていたバックビークが、首をひねってシリウスを見つめ催促していたが、しまいにはシリウスがほうり投げてしまったブラシを悲しそうに目で追った。ブラシがぼうぼうと茂る野草の中に消えるかという瞬間、ハリーが大きな声をあげた。
「また手紙をくれる?」
「ああ」
条件反射のように請け負ってから、シリウスは相変わらず不思議そうな顔をして、まばたきを繰り返したあとおかしそうに笑った。
「いい天気だ。クィディッチ日和じゃないか」
いつかのクィディッチ戦のハリーを思い描くように、シリウスが雲より高い、天の頂きを見上げた。
ハリーは晴れやかな安堵から、にっこり笑って、ふてくされて座っていたバックビークの背にもたれかかり、空を仰いで目を閉じた。
「今度……観にくればいいよ」
「ハリーが飛んでいるところを見たことがあるか?まったく、あの父親のようにすばらしいんだ」
「ああ、パッドフット。僕はホグワーツで教えていたあいだ何度も見たんだ、君のように忍びこまずともきちんと観客席に座ってね」
これは彼のお気に入りの話題だった。
幾度となく繰り返される問答に飽き飽きした様子のリーマスにもかまわず、嬉々としてシリウスが続ける。
「そう、あそこまでたどり着くのも一苦労だった。禁じられた森とクィディッチ競技場は離れていて、もうすぐ試合が始まるって時にはどこの小道も生徒でごった返していたし、だから私は途中に入っていくしかなかったんだが――」
リーマスのまぶたが重くなり、目はうつろに、視線がさまよっている。
「クルックシャンクスの助けがなかったら、うかつに動くことさえままならなかったに違いない。とにかく、競技場に着いたとき、ハリーはすでに空中にいて、リリーに似た緑色の瞳をみはって、スニッチを探していた!」
当時の感動がぶり返してきてシリウスがこぶしを握る。
ゴッという鈍い音がしたので見ると、リーマスが机に顔を伏して寝ていた。
「おい、寝るな。いいか、これからハリーがスニッチをつかむところだ」