gift

□銀の火
1ページ/4ページ




歩いていた、水底のような夜更けの静謐を一人乱した。
草の露が足首を濡らす、息を切らし前へ足を運ぶ。
朝日が昇る前にベッドに戻らなくては。それでも忌わしい傷をみんな隠してからだ。もうさほど痛みは感じない、だから笑ってもいられるだろう。
人の目は夜目が利かない。薄くおぼろな月の光に頼るなんて。
そのままでは散り散りになる満月の夜、夜、夜と日常とをつなぎ……

自分をだまし人をだまし続けて、そうした中に本当に僕を見つける人もいる。

「なんで笑っているんだ」
僕にだってわからなくて。
けれど笑っていなくたって誰かが自分のそばにいてくれるんだろうか。

「気持ちがわるい」
そう言ったセブルスに少し救われた。




リーマスが透明マントを引っぱって図書館の中をのぞきこんだ。窮屈そうに身を寄せたジェームズとシリウスに振り返り、うなずいた。
毎週金曜の夜は消灯時間近くまでセブルスが図書館にいる。
河童の扮装をしたジェームズは図書館の入り口そばの廊下に座っていた。
「スネイプをおどかせばいいのか」
「ああ、せいぜい河童になりきってもらいましょう。見回りが来ないところがいいけど」
シリウスがジェームズの頭に乗った皿にさわり、揺らしながらささやいた。
「水の音がうるさいよ」
リーマスが言い、シリウスは手を下ろした。ジェームズは不満をこぼした。
「こんな格好するのがおかしい…!」
「河童ってさあ、廊下を歩いたりするか」
ぽつんと呟いたシリウスをジェームズがにらんだ。
「考えるな。考えたらそこで止まる」
ジェームズが捨て鉢に言った。

セブルスの他にただ一人残っていた女子生徒が立ち上がり廊下への出口に歩いてきた。
3人が首を引っこめた。壁に張り付いた後再び図書館にセブルスの姿を捜すと席を立った後だった。
視線が焦って教室中をうろつき、本棚の列の間に小柄な肩と黒髪の頭をとらえた。
そろそろだとうなずきあいリーマスとシリウスがジェームズの腕を皿の水を揺らさない程度に叩いた。
ジェームズはなるようになれと飛び出すと近づいてきた足音が妙に重かったことに気づかずに、正面から司書の先生の悲鳴を浴びた。
「間違えましたあっ」
ジェームズが耳をふさいで逃げ返ると、シリウスたちがいたあたりを探っても何の反応も返らない。
「見捨てる!?」
「騒がしい人ねえ、何のつもり?」

ジェームズがうなだれている廊下を通り越し、図書館の中にはリーマスがいた。
背後から声をかけると、油断無く振り返ったセブルスと向き合った。
目を見て言葉を交わしたことは数えるほどしかない。

「って――いうわけだから、髪をシャンプーさせてほしい」

「納得がいかない」
「……うん。もっともだ」
リーマスは苦笑した。セブルスは脇に抱えた分厚い本を左手に持ち替えながらリーマスを見た。
月のなく毅然とした夜の色、綺麗な秘密が満ちた闇の黒。黒の目。
次は目を逸らさずいようと決めていた。




次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ