小話

□またひとり
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グリモールド・プレイス十番地の屋敷へ、絵画を渡り歩いてフィニアス・ナイジェラスの姿が現れる。
呼んでいる、曾孫の名を。
「シリウス、シリウス……」


シリウスからの手紙が来ない。

あたりまえだ。なぜなら――なぜなら――その先を考えたくない。
砕けた両面鏡の破片。散り散りに映りこむ自分の顔が醜くゆがむ。
何へ対して怒っているんだろう。
すべては瞬きをする間に通り過ぎていった。

もらったもの、ナイフも鏡も折れたし、割れてしまったんだよ。
僕が悪いんだろうか。乱暴に扱ったし、使い方を間違えた、感情に任せて投げつけた。

手紙が、ある。

かきあつめて、読み返す。

泣きたくはない、……すべての音が聞こえなくなるようになって……
いつか、肖像画からの声が響いてくる。
それに合わせて僕も声をあげる。呼ぶ、ここはひとりだ。あなたの場所もひとりだろうか。
僕はひとりだ、あなたもひとりだろうか。






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