小話
□七色変化
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その日ははじまりから、どこかおかしかった。
いつもなら寝坊なんてしないジェームズが、寝過ごして朝食を食べ損ねてしまった。
それに、誰もかれもジェームズを放っておいて、先に授業へ行ってしまったのだ。
なんて薄情なやつらだろう。僕がなにかしたんだろうか?
ジェームズはベッドサイドのテーブルに手をのばした。
メガネがない。
あわててあたりを見回し、見当たらないと知ると、どこだ!と大声で叫んでみた。
時計を再度確認し、制服を取りに走りながら寝巻きを脱ぐという荒技で、ものの数分で身支度をすませてしまった。
その頭は、いつにも増してくせっ毛がはねまわっていた。
廊下を行く途中の中庭で、二人の男子生徒がシャボン玉を吹いていた。
「なんだなんだ、楽しそうだな」
ジェームズはずんずん歩いていって二人の前に立った。
「いくら起こしても起きなかったんだよ。だからにらまないでくれ」
「ジェームズ、今日授業休みになったの。知ってる?」
リーマスとピーターが、ジェームズのほうを向いて言った。
「知らないさ!」
「今聞いたでしょ」
リーマスが言って、口にくわえた筒からひときわ大きなシャボン玉をふくらませた。
空に送りだした虹色のまあるい玉が、光をあびて七色に色を変え、風に流されながらのぼっていく。
「いろんな色がぐるぐるまわってる…」
「それ!かして!」
ピーターがセッケン水をジェームズに渡し、ジェームズはリーマスが楽しそうにシャボン玉を吹いている様子を見て、小さな筒をセッケン水の中につけた。
「それ、吸っちゃダメだから」
ジェームズがセッケン水を勢いよく吸い込み、咳きこんではきだすところで、ピーターがのんびりと言った。
ジェームズは二人の友情をうたがってしまう。
「あいつはどこだろう。シリウスは?」
「あー……そういえば今日見ないんだ」
「どこかへ消えちゃってさ」
「一人で考えたいことでもあるのかな。それとも、ラブレターの女の子たちと会ってるかも」
「そりゃないな……どっちかっていうと、逃げまわってるかも……」
きっぱりとジェームズが断言する。