小話

□かれの足音
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足音でわかる。

「ムーニー、平気か」
声がかけられるずっと前から、シリウスが僕の背中を見て、じっと立っていたことを知ってる。
足音をしのばせても、さまつなことにこだわらない普段からの鷹揚なドアの開け方、歩き方はそのまだ。
「・・・・・・あすは満月だから」
君の荒っぽい優しさを知ってる。
「ジェームズももう気づいているだろう。僕は人狼なんだ。だから僕には近づかないほうがいいんだよ」
君たちの友情を知ってる。
「それがなんだ。僕らにとって、人狼であったっておまえは怖くない。ジェームズもピーターも、そんなことで離れていかない」
「僕が怖いよ」

机に伏した顔をあげて、本当は、怒鳴ってやりたかった。
・・・・・・僕は、卑怯だ。

「君たちをいつ傷つけるか、殺してしまうかもわからない。僕は僕でなくなるんだ。──狼になるんだから」

「僕たちはアニメーガスになる」
シリウスの声がすぐ近くから聞こえた。
「満月の夜は、4人で禁じられた森を歩こう」
その声はくぐもって、まるで泣いているように聞こえた。
「おまえは狼じゃないよ」
僕の肩に手を置いた。それから抱きしめられた。鳴咽をこらえて、シリウスの声は途切れた。
・・・・・・おかしいよ。
泣きたかったのは僕なんだ。
それくらいつらかったのに、今は心をあたためる安心感で涙がにじみそうになる。
悲しみは見えなくなるまで追いやられて、ほっとする嬉しさに心を占められる。
「変なの」


僕の不安が君に伝わってしまったのだろうか。そんなことを信じてもいいのだろうか。
明日は満月。
君たちとともにいられるなら・・・・・・
明日がそんなに悪い日でもないと、思えるときがくるかもしれない。





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