目隠し鬼

□第1鐘
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「玖雅
(くが)、まだ寝てるのかい?さっさと起きなよ」


やわらかな男性の声と共に、部屋のカーテンが引かれる音がした。
閉じた瞼が少しだけ明るくなり、俺は眼を覚ます。

「駁
(はく)……、?また来たのか」

窓辺にいる人物に声を掛ける。
駁と呼ばれた男性は、悪戯っぽい笑みを浮かべて寄ってきた。

「随分な挨拶じゃないか玖雅。哀れな君の為に無理して来てあげてるっていうのにさ」

時計を見る。午前5時16分。
当然面会時間には程遠い。

……つまり不法侵入ってコトで。

「俺を共犯にする気か」
「嫌だなぁ、そのくらい親友として我慢してよね」

否定もしない……
もう慣れたとしか言いようがないが、出来ればそんな事態は避けたかった。

     、、
俺は呆れたフリをして、布団から起き上がる。



此処は病院の個別室。
1人には広すぎるその部屋も、あと2時間もすれば医師達で賑わいをみせる。
その時には不法侵入者として親友がちょっとした騒ぎを起こすだろうが、俺は被害者ということにしておけばいいだろう。

腹に響く鈍痛は、骨を折るか折らないかという怪我のものだ。
当然此れが原因で入院をしているわけなのだが、看護師が言うには、俺が痛みを感じていないかの如く動き回るので治る気配が全くないらしい。
まぁ患者の私生活に何も支障が無ければいいんじゃないかと思う部分もあるが、それこそ骨をぼっきり行きかねないので、避けることにする。

俺はベットの上に座ったまま、まだ新しい記憶を探った。

「駁、……石蕗
(つわぶき)は、まだどうなってるか解らないか?」

早朝で何も面白いコトはやっていないテレビを眺めながら、駁は考える素振りをする。

小さな飾りみたいに掛けている眼鏡の奥で、駁の眼は微かに細められた。

今日は朝早くから弓の稽古があったらしく、袴姿。
実家が道場なのだ。
全く、名家の産まれなのにこの無礼さ………わざとなのが逆にタチ悪い。


「石蕗の眼は、もう駄目だってさ。眼球もないし、神経もかなりズタズタらしいよ」

「……そっか」

それだけ言って、俺は腹を庇うようにしながら顔を洗いに部屋を出た。







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