目隠し鬼
□第1鐘
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ーーーーーーーーやめてよ
また、
声がする。
瞬間、石蕗が悲鳴をあげた。
それはまさに金切り声というもので、思わず耳を塞ぎたくなるような雑音だった。
「十彩ちゃんっ!!」
石蕗の妹的存在、桐琴・穂(きりこと・すい)の必死の叫びも、石蕗には届かない。
「やめろ石蕗!!―――死ぬぞッ!?」
悲鳴が頭に響いてガンガンする。
でも俺は眼から溢れる血量が尋常ではないと解っていた。指で何処かを無駄に傷付けたのかもしれない。
でも俺の指は血で滑ってばかりで、石蕗の指を捕らえる事が出来ない。
それにイライラしながら、俺は響き渡る悲鳴に耐える。
指が石蕗の眼球に触れる度、嘔吐感が増す。
ここまで来てしまったら、例え止めさせられたとしても、もう眼は使い物にならないだろう。
解っていても、石蕗にこれ以上こんなことをさせておきたくなかった。
そう、いっそのこと、気絶させてしまおうかーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーもう、しょうがないなぁ
笑いを含んだその声と同時に、石蕗の悲鳴は止んだ。
妙な静けさが、俺達の動きを止めた。
「…何が、起きて……?」
「玖雅!!離れろっ!!」
駁の叫びに、何から、と疑問を浮かべた瞬間、
「きゃらっ!!」
石蕗がーーーーーーーーーーー
「きゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃらきゃら」
わら
狂ったーーーーーーーーーーー
情けないことに、俺達は全員、背を這い回る寒気を抑えることが出来なかった。
戦慄ーーーーーーーーーした。
俺は石蕗から手を離してしまったし、駁も何も言えなくなっていた。
笑い続ける石蕗は、眼球に固定された腕を何度も引いた。
やめさせようと立ち上がっても、胸に残る気持ち悪さが、踏み込むことを躊躇わせた。
それでも。
力の入らない足に喝を入れて、石蕗の肩を掴んだところで。
笑いが、止まった。
「、?」
俺の思考も止まる。
刹那、
石蕗が、こっちを向いて、
「ぜったいゆるさないっ!!」
と叫んで、
ぶしゅっーーーーーーーー
と、眼が、潰れた。
「石蕗っ!!」
みんなが悲鳴をあげ、俺が混乱した。
唯一思考がまともだったのが、駁だ。
「い……ぎ、ぃあ゛っ」
踞る石蕗の周りは、もう黒く変色していて、右手は、自らの眼球を潰してそのままだ。
「犀っ!救急車頼むっ!!」
「え、あ、う…うん!!」
放心状態だった桐琴・犀(せい)を覚醒させて、駁は石蕗に寄った。
「しっかりしろ玖雅っ!!止血だ!!」
「あ、あぁ……!」
曖昧な返事で応える。
こんな異常の中で、止血なんて常識すぎる方法が浮かばなかった。
駁は落ちていた目隠しの布で、足掻く石蕗の右眼部を強めに縛った。
一瞬にして赤く染まる布を見て少し顔を歪めたが、それだけだった。
石蕗は電池が切れたように動かなくなり、みんが落ち着きを取り戻しつつあった時ーーーーーーーーーー
ばきっ
「ーーーーーーーーーーがっ……!?」
「玖雅!?」
鳩尾に、鈍い痛みが走った。
石蕗の膝……に、見えた。
果たしてそれは間違っていなかった。
信じられない程の強い力に意識が遠退くのを感じながら最後に見たのは、
虚ろな左眼で俺を睨む、石蕗だったから。
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