目隠し鬼

□第1鐘
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ぶつっ




湿ったその音が、全ての始まりだった。

反射的に動いた俺の身体は、石蕗が何をしたのか解っていたんだと思う。
俺に続いて駁も動いたが、駁が俺に追い付くことはなかった。

「       え?」

駁が零した声は、自らの肩に掛けられたものだった。
徐々に広がってゆく染みが、傷の深さを物語っていた。
切り裂かれている。
少しでもずれていたなら首など一溜まりもない。

「駁っ!?」
「痛、ぅ……っ」

俺が振り向き、どちらを優先するか迷った瞬間ーーーーーーーーーー







だめだよ、じゃましちゃ






空気を全く震わせない、それでも耳に届いた声。
勿論此処にいる誰のものでもない、幼い女の子を思わせる声。

「な、に…?」
「玖雅っ!!」

一瞬動きが止まった俺に、駁が怒鳴った。
何をやっているんだ、と、瞳が怒っているのが解る。
俺はしっかりしない足で感じるがままに石蕗に寄った。

ふいに顔を覗いたところで、本当の意味で凍ってしまった。

眼球を掴む細くて白い指が妙に生々しくて、赤い顔面によく映えていたのを憶えている。


「……う、……っ!!」

突如襲い来る激しい目眩と嘔吐感。
その光景があまりに鮮明で、脳の裏側までに焼き付く感覚を覚えたから。


「石蕗…っ」

ぶつぶつぶつ、と、石蕗の眼が音をあげながら痙攣する。
瞼を捲りあげた指は、その美貌から眼球を引き剥がそうとして離さない。
鉄の塊を落としたような音をたてながら、黒い塊が地面に落ちた。

「ぎ、……ぃッッ!!」

石蕗の声が、あまりにも苦しそうで。
手で覆われた右眼は血を、見開かれた左眼は透明な涙を。




「玖、雅ぁ…?」

「………ッッ」

石蕗の、俺を呼ぶ声で、覚醒した。
ふらふらと、自分でも情けないと思うような足取りで立ち上がり、石蕗の腕を掴むと何とか離させようと力を込めた。






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