短編小説

□7.夢物語
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「だめだ、危険だぞ! 待っていろ」

フロスティの言葉が私を止めようとする。

ウェインは着替えをして基地から出てきた。
私とフロスティのやり取りを聞いていても、彼はいかにも助けに行きますと言わんばかりの顔をしていた。

「危険なのはわかってる。でもアベルが心配よ!」

すかさず私は言い返す。

「……」

しばしの沈黙が流れたあと、フロスティはやがて

「しょうがないな。何かあっても面倒見きれないぞ?」

と、あきれた顔をしながら向きを変えて歩き出す。

「じゃ、オレも行くんだな〜」

ライモンドも後からついて来る。

フロスティはため息混じりに色々言うが、みんなの意思は変わらなかった。

そして、基地から急いで商店街へ向かった私達は、状況の悪さに驚きを隠せないでいた。

「これがキメラの力か……?」

思わず棒立ちになるほど、言葉を失うような風景が広がっていたのだ。

建物からは煙が立ち、まだ燃えている箇所もある。
巨大な爪痕のような傷も残されている。

「アベル、大丈夫かな……」

嵐でも過ぎ去った後のような風景だったために、ウェインの表情が曇る。

「……この気配……この殺気、並大抵の者じゃないな。なんかやばそう」

みんなが感じているほど敏感ではないが、私でも相当な敵なのだとわかる。
ライモンドの鱗が逆立っているのが見える。

先ほどから向けられている殺気だけで、どうかしてしまいそうになるほどの緊張感に襲われている。

気のせいではない。

何者かが近くに潜んでいる……そんな気がしてならないのだ。

そして対峙する時が来た。

その気配を完全に捕らえたのは黒い影を見た瞬間だった。

「……ッ!」

敵はターゲットを見つけるなり、全速力でこちらに向かってきた。
四足で走ってくるので、ビースト(獣)だろうか。

「速い!?」

狙いはフロスティらしい。彼はすれすれで避けるが、敵もそれにあわせて調節してくる。
今度は確実に仕留めるつもりなのか、背後を狙って攻撃しているようだ。

「ウェイン! ライモンド! サフィラ! ここから逃げろっ!!」

大声で私たちに言う。彼一人では大丈夫なのかと思いながらも

「フロスティにまかせて……言われたとおりにしましょう?」

こんな状況の中、人間の私だからそんなことを言ってしまったのだろうか。

「オレは敵を食い止める!!ウェインはサフィラと逃げてよ。フロスティ一人じゃ、無理だよ」

ライモンドは自らの危険を省みずに走って戦いに行った。
もちろんフロスティは怒りながら、すぐに行けと言うが、ライモンドは首を振る。

「雷帝の力、なめてもらっちゃ困るんだな〜」

陽気に言いながら、体に電気を蓄え始める。

「雷帝……だと?」





……二人の会話が聞こえなくなって数分が経った。

ウェインと一緒に走ってどうにか、人が避難している場所まで着くと、
避難所にいる人々は怯えながら外はどうだったのかと聞いてくる。
状況を説明するには情報が足りなかったが、キメラがどんな姿なのかを言った。

「リューンから送られてきたキメラか……?」

「まだほかにもキメラはいるのかしらね?」

と、みんな口々に言う。

私は呼吸を整えてから何か策はあるのですか、と尋ねる。

しばらくすると

「人間じゃ、とても敵うような相手じゃない。だから獣族の自衛隊が対処するそうだよ」

と、一人の若い竜人が教えてくれた。
事が解決するまで、待ち続けなくてはならないのだ。

この避難所も絶対に安全とは言いきれないが、今はここにいるしかなさそうだった。
そんな事件が発生しているのなら、ますますアベルのことが心配になってくる。

「……」

私がすっかり気落ちしているのに気づいたウェインが

「きっと、大丈夫だよ。もしかしたらここにいるかもしれないよ?」

そう励ましてくれた。一番心配しているのは彼自身のはずなのに。

「探してみましょうか」

避難所は混雑していて、地下も避難した人で溢れている。
一階のホールを探してもなかなか見つからない。
どこを探しても狼獣人の姿は見当たらなかった。

だが、諦めかけていたその時だ。

「ねぇ、誰を探しているの?」

ふと声をかけられたので振りかえって見る。

「あっ!!」

思わず顔が微笑む。

にっこりとした表情の小豆色の毛並みの狼獣人。

声をかけたのはアベルだったのだ。

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