短編小説

□5.夢物語
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もうこの世界へ来て、何日が過ぎていったのだろう。
そうと感じるまでに、すでに時は経っていた。

「じゃぁオレ、ちょっと買い物に行ってくる。いつも通り、ウェインとサフィラは情報を集めてくれ」

アベルが財布を持ちながらそう言う。

私とウェインはラジャー、と敬礼の真似をする。

「そういえば、昨日、繁華街でちょっとした騒ぎがあったらしいよ。
警察の人がみんなに言ってたんだけど、キメラが出たんだって」

ふいにウェインが不安げに言う。キメラ……人工生物のことだろう。

「どんなキメラだったの?」

と、私は首をかしげて問う。ウェインは少し考えてから

「獣人で、茶色とか白とかが混じった色をしているんだって。カーブした角も生えていて……
それから尻尾は長くて毛が長めみたい。明らかに毛並みが不自然だからすぐにサフィラもわかるよ。ほら」

と、一つ一つ思い出しながら教えてくれた。写真を偶然撮った人がいるらしく、警察がそれを印刷し、壁に張り出していたらしい。

差し出された紙には、写真が載っている。

暗がりにいるためにはっきりとはわからないが、成獣だろう。

背が高めで体つきは雌獣人のようだ。翼も生えていて、今にも飛び立とうとしている瞬間だった。

「なにも被害が出なければいいわね」

「うん。確かに……アベルも気をつけてね」

アベルはわかったと言うと街の中心へと出かけていった。

そんなことを話しながら賞金首たちの情報を集める支度をしていた。
準備が整った後、私達は基地を後にした。

今日の天候は曇りだ。雨も降りそうな気もするが、まだ大丈夫だろう。

タイヤが積まれている道を潜り、路地裏を通り、穴の空いている壁を通って人通りの多い街へと歩いていった。

先ほどまで薄汚れていた壁が、苔の生えたレンガ造りの壁へと変わっていく。
いつもとなんら変わりの無い町並みが視界に広がる。
店には会計を待っている客が数人並び、荷物を引く大きなトカゲもいる。

ウェインはまず、フロスティに調べてきて欲しいと言われていた場所を私に教えてくれた。
危険を察知したらすぐに逃げられるようにしなくてはならない。
もし、犯罪者に出くわしたらどうなることか、想像すらしたくない。

ウェインは翼を使って逃げられるが、人間の私はどうするか、昨日のうちに考えておくべきだったか……

と、今更考えるのも遅い。最終的には臨機応変に行こう、そう思った。

「サフィラ、見て!」

急にウェインが立ち止まり、小声で話す。すばやく隠れて様子を見てみた。

すると獣族の二人がもめていたではないか。

一人は大人の獣人だ。クロヒョウのような感じだった。
手にはナイフが握られている。

また、もう一人の脅されかけている人は竜人だ。
黄色い鱗で背中には大きな翼があり、静電気のような音が聞こえる。
属性が雷だからだろうか、危険を察知したからなのか、蒼い電気を体に帯びている。

「助けなきゃ……でもどうしよう」

助けたくてもどうしようも出来ない状況にあたふたしている私に、ウェインは覚悟を決めたようだった。

「ぼく、助ける! サフィラは警察を呼んできて!」

私がその言葉に一言も返事をしないうちに、ウェインは飛び出していった。
驚いたあまりにしばしの間、足が動かなかったが、力のあまりに駆け出し、警察を呼ぼうと必死に走った。

私に出来ることならなんだってやる。

だからウェイン、どうか無理をしないで、と思いながら……

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