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□夕立
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ぽつ‥ぽつ‥ぽつ‥ぽつ‥
‥ザァァーー
始めは小さかったのに、まるで透き通った水に灰色の絵の具を一滴落とした時のように雨雲はどんどん広がって…




「困りましたわ」
いつも、どこか余裕を漂わせている知世ちゃんが珍しく、本当に困ったような様子で恨めしそうに窓の外を眺めている。

「どうしたの」
友人のピンチとあらばほうっておけない。心配になって訪ねてみるとその答えは意外なものだった。

「傘を忘れてしまいまして…」

どうかお気になさらず
といつもの笑顔でつけ加えた知世ちゃんに

「知世ちゃんが、傘を忘れるなんて珍しいね」

と答えながら、ゴソゴソとカバンのなかを探りはじめる

‐あった!‐

お目当ての花柄の折り畳み傘を探し当て、一瞬頬がゆるむ。

‐たしか、下駄箱の所にも一本傘を置いてたはず‐

「はい、これ使って」

「でも…それではさくらちゃんが濡れてしまいますわ」
いつでも相手のことを考えている知世ちゃん‥
ホントに優しいんだね。

‐でも今日は大丈夫なの‐

「私はね、下駄箱の所に別の傘があるの」

「ですが‥」
と言いかけた知世ちゃんに少し強引に傘を手渡し、言葉を遮る。

「わかりました。遠慮なく使わせて頂きますね。
ありがとうございます。
では、私は今日、外せない用事がありますので‥お先に失礼します。」

深々と頭を下げた後、そそくさと教室を後にしてしまった知世のことに少し首を傾げながらも、いつも助けてくれる友人を、逆に助けてあげられることを嬉しく思いながらさくらも教室を出て行った。
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