その他×ツナ 1

□クリスマスがやってくる
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「ねぇ、クリスマスどうするか決めた?」

「今、カレシと見に行く映画捜してるトコ。でも着てく服がなくてさぁ」

「今日誰か空いてない?プレゼント捜しに行くの付きあって〜!」

教室の隅できゃあきゃあと盛り上がりつつネイルをいじる女子達の会話を、楽しそうだなぁ〜、と聞き流す。
どうもさっきから聞いていると、今年のクリスマスイブは土曜だから、気合いを入れて臨まなければならないらしい。
よくわからないけど、女の子は大変だ。

(ま、どうせ恋人達のイベントなんか、俺には関係ないしね)

クリスマスっていったって、家のコタツに入ってみかんを食べながらテレビを見て過ごすだけだし、と思う。
でもチビ達がいるから、今年は母さんがケーキ多めに買ってくれるかもしれないなぁなんてちょっとわくわくしてると。

「つーなっ!」

「ぅわっ!」

どーん、と後ろから長身の長い腕にタックルされて、べしゃ、と机に撃沈する。
なんだよ、と顔を上げれば、精悍な顔に人好きのする笑顔を浮かべた、俺の大親友。
なんだか、いつもよりうきうきしてるように見える。

「なぁ、24日どうするか、もう決めたのか??」

「24日?なんで?別にいつも通りだけど?」

圧し掛かる山本を押して身を起して振り向くと、「あれ、聞いてねーの?」と驚かれた。
何が?と思って首をかしげると、



――――ドドドドドドドド!!!!



「じゅうだいめぇぇぇっっ!!!!」


「ひぃっ!!」


もんのすごい必死の形相で獄寺君が突進してきた。

「10代目は!!レストランディナーと船上クルーズとイルミネーションと夜景と水族館と遊園地と、いったいどれがお好みでしょうか????」

キキ――っ!と急ブレーキの音がしそうな勢いで急停止した獄寺君は俺の机にダンっと両手をつき、怒涛の勢いで俺に何か聞いてきた。

「はぃ???」

ただ、あまりに早口で何を言われたのかサッパリわからない。
ええと・・レストランがどうとかって・・・?

「スっっ・・・スイマセンっ!!こんなこと10代目にお聞きするなんて右腕失格だってわかってますっ!!けどっ!俺、どうしたら貴方に一番喜んでいただけ・・「あー、クリスマスデートかぁ。なるほどな!」

獄寺君の説明を完全に遮って、後ろから山本が妙に感心した声を出す。

「クリスマスデート??」

「そ。獄寺のやつ、デートにどこ行ったらいいかわかんなくてツナに相談してぇんじゃねーか?」

「えええぇ!?」


デート!?獄寺くんが!?


(ってか、獄寺君、そんな相手いたの―――――???)


ビアンキのトラウマのせいで、すっかり女嫌いになったんだと思ってたけど、違ったんだ!!

「ホラ、イタリアと日本じゃ、ちょっと過ごし方違うしさ。参考にしたいんじゃね?」

衝撃に固まっていた俺は、こそっと山本に耳打ちされて、なるほどと頷いてしまった。
ニコっと笑う寸前、眇めた山本の目が妙に光った気がしたのは、きっと目の錯覚だろう。

(・・・そっか。獄寺君、こう見えて結構尽くすタイプだしなぁ。きっと失敗しないように一生懸命なんだろうなぁ・・)

なにかと突っ走りがちな獄寺君のことだ。
確かに彼ひとりじゃ心配だし、俺はいつもお世話になりっぱなしなんだから、こんなときくらい力になってあげたい。
相手が気になるところだけど、デートが成功してからゆっくり聞こう。
こんなときは黙って力になってやるのがオトコの友情だよな。うん。

「あ、あの、じゃあ・・・俺なんかの意見で良ければ・・・」

「俺の耳は貴方の麗しいお声しか聞こえませんっ!俺の目には貴方の美しいお姿しか写りません!」

おずおずと言ったら、軍隊ばりに力んで見当違いな即答をするから、思わず引きつってしまった。
だめだ。完全に会話が成立してない。
いやいや、しかしこんなことでくじけてたら獄寺君の友達はやってられないんだよと自分を励ます。

「あ〜〜・・、でもさ、ホラ、こういうのって結構、好みがあるだろ?
やっぱり相手が行きたいところが一番なんじゃないかな。どこか心当たりない?」

「こっ・・・心当たり・・・っスか・・・」

途端に険しく難しい顔になって「あぁぁの、・・それがっ、ひと晩考えたんですが・・・・」と苦悶の表情を浮かべた獄寺君に、ああ、まずそこからなんだ、と遠い目になる。
もしかしたら、まだ恋人同士じゃないのかもしれない。
そう思えば、一生懸命な獄寺君の健気さにじぃんと心を打たれた。

そう。彼は一見不良でめちゃくちゃなのに、中身は本当に一途で真面目な少年なのだ・・・ちょっと過激だけど。
こんな獄寺君には、ぜひとも幸せになってほしいと思う。

ただ、ぼぅっとしてる間に放置してしまった目の前の獄寺君は「スイマセン!大事な御方のお好みひとつ解らない俺はやっぱり右腕失格ですっっ!!」と絶望して号泣しだしたので、「ごめん聞いた俺が悪かったぁぁ!!」と慌てて宥めた。
いつもより獄寺君が激しい気がして内心軽く首をかしげたが、まぁ、それだけこのクリスマスデートに懸けているということだろう。

(どうしよう。確かに力になってあげたいけど・・・俺だって経験ないし)

こうなると、ついつい頼ってしまうのが、この親友だ。
ちら、と困り顔で見上げたら、山本がにっこりと笑い返してくれた。

「で?ツナだったらどこ行きたいんだ?」

「えっ!?お、俺ぇ!?」

俺のなんか聞いてどうすんだよ!と言ったら、「まーまー、そう言わずにさ」「10代目の行きたいところが知りたいんです!!」と、2人がニコニコとギラギラのW圧力をかけてきた。
この空気でさすがに言いたくないとは言えない。仕方なく考える。

(えっと。まぁ、仮に京子ちゃんと行くなら・・・・)

「やっぱ近場かなぁ〜。街のイルミネーション見に行ったりとか・・・?」

「なるほど!灯台もと暗しですね!さすが10代目っ!ナイスセレクトっス!!」

それ褒められてもね・・・と引き攣りつつ、あとは京子ちゃんの好きなケーキ屋さんに行くとか、買い物かなぁ、と、思い浮かべるものの、やっぱりピンとこない。
そもそも、俺に聞くのが間違ってるんだと思う。

「うーん。けど、やっぱ他に思いつかないや。普通はどうするんだろうね。山本は?」

「こいつの意見なんざどうでもいいんです!」と憤慨する獄寺君をスルーして、山本に話を向ける。
だって、どう考えたって山本の方が経験豊富そうだ。顔が広いから情報量も俺とは比べ物にならないだろうし。



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