その他×ツナ 1
□そんな貴方が愛しくて
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執務室に入るなり、獄寺は素早く綱吉の腕を引き、たった今閉じたばかりのドアへ抑えつけた。
「!?」
驚いて身体をこわばらせる華奢な身体には、本当は誰よりも強い力が備わっているのに、戦闘のとき以外は決してその力を使おうとしない。
そんな彼の甘さが愛おしくて苦しくて、込み上げた感情そのままに、獄寺はダンッと両手をドアに打ちつける。
獄寺の腕に閉じ込められた綱吉は、大きな音にビクリと肩を震わせ、怯えの滲んだ琥珀色の瞳をわずかに泳がせた。脳内をフル稼働させて、一体何がこの状況を作り出したのか考えているに違いない。
「・・あの、獄寺・・くん?」
本当に心当たりがないとしたら、なんて残酷な人だろう。
こんなにも自分の心をかき乱しておいて、そんな無垢な瞳で見つめないでほしい。
「・・・今日は・・・ネロファミリーのドンと2人きりで会食――でしたよね?」
「う・・・うん。そうだけど」
「大事な話があるからと、あちらのドンが直々に貴方を指名して。わざわざ個室で人払いまでしたと部下から報告が入っていましたが?」
「うん・・・そう、だった。けど・・・」
それが一体どうしたのかと、戸惑いながら肯定した綱吉に、胸が刺されたように痛んだ。
胸が、ドロドロした黒い靄に覆われて膿んでいくような気がして、ギリ、と奥歯をかみしめる。
「なら、なんで―――女の香水の匂いがするんですか」
綱吉の耳元に唇を寄せ、ぞっとするほど冷たい声で囁いた獄寺に、綱吉がギクリと身を強張らせた。
「――っ!!」
「いつからネロのボスは女性に代替わりしたんです?まさか美人秘書でも連れていたと?」
「ちがっ!獄寺くん――――」
驚いて、弾かれたように言い訳しようとした恋人の口を、聞きたくないという衝動のまま噛みつくように塞ぐ。
「――――ンっ・・・・・・ふっ・・・・・・」
しっとりして、熱い綱吉の口腔は、こんなときでも嫌になるくらい、甘い。
くちゃりと、わざと淫らな音を立てて口の角度を変えて舌を使えば、綱吉の頬がカッと上気する。
無防備に瞼を閉じて、快感に震える長い睫毛の美しさ。
時折口からこぼれる、押し殺した甘い吐息。
その存在全てが、どんなに男の劣情を煽るか、この至上の主はいつまでたっても理解してくれない。
「・・・ふぁ・・・・・・ぁ・・・・・・んんん・・・・・・」
だからいつも獄寺は気が気ではないのだ。
奪って、奪って、奪いつくしても、決して自分1人だけのものになってくれるような人ではないから。
綱吉はこんな自分を好きだと言ってくれるのに。それだけで満足できない浅ましさが、こうやって胸の内を蝕んで、暴走する。
「10代目・・・――綱吉・・・さん・・・・」
まだ唇が触れそうな距離で、その名を紡ぐ。
2人きりの時だけ限定の、仕事中は決して呼ぶことのない、名前。
「女と・・・会っていたんですか?俺に隠れて?」
「―――!?」
「バレないとでも?」
「っ違う!」
熱いキスに翻弄された瞳は潤み、頬は色付いたまま、それでもキッと獄寺を睨んで、憤りもあらわに声を上げた綱吉は、自分がどれだけ扇情的な顔をしているか、まるでわかっていない。
「・・違うんだ。聞いてよ!」
綱吉が、ぎゅっと獄寺のスーツを掴む。
恋人の誤解を解こうと口を開き、しかし冷たすぎる視線に怯んで言葉が続かない。
泣き出しそうに顔を歪めた綱吉は、ひどく幼く見えた。
「――っ!!」
「――すみません・・」
泣かせたくないのに。
違うと必死に否定して、傷ついた顔をする綱吉に愛おしさが溢れて歓喜するなんて、いい加減自分も狂っていると自覚する。
これ以上綱吉を穢してしまうのが恐くて、ぎゅっと強く、細い身体を抱きこんだ。
吐きそうになるほど不愉快な女の匂いを、一刻も早く消してしまいたいと願いながら。
「言い過ぎました」
あやすように唇を白いうなじに滑らせ、耳朶を甘噛みしたら、鼻先をくすぐる亜麻色の髪からようやく綱吉自身の香りがして、その優しい匂いに泣きたくなった。
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