山本×ツナ2
□拍手短文 山ツナ3
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錆びた鉄の音を立てて重い鉄製のドアを開ければ、生温かい風がぶわっと吹き込んでくる。
山本は全身に風を受け、一瞬、外の光の眩しさに目を顰めた。
「なんだ、獄寺まだ来てねえのか」
ただっ広い屋上にいるのは、綱吉ひとりだ。その傍らに獄寺がいないのは珍しい。
なんか用でもあんのかな、と思いつつ足取りも軽く綱吉に近づいた。とりあえず、うるさい邪魔者が来る前に綱吉と2人きりの時間を楽しむことにする。
「・・・・・・・ツナ??」
フェンスに凭れて座る綱吉は、俯いたまま顔を上げない。そよそよと、栗色の髪が風になびいている。
「あ〜〜・・待ってる間に寝ちまったか」
呆れたように苦笑するものの、気持ちはよくわかる。
ぽかぽかの陽気に穏やかな陽の光。絶好の昼寝日和だ。目を閉じれば眠気がなくたって気持ち良い眠りに落ちることだろう。
童顔な綱吉の寝顔は普段よりもいっそう幼さを増して、山本の胸をトクンと鳴らした。
「せめてメシ食ってから寝りゃーいいのに・・・」
がしがしと頭を掻いて、弱り切ったように溜息をついた。綱吉の弁当は包みを解かず放置されたままだが、こんなに愛らしい寝顔を晒されたら、起こせるわけがない。
山本の脳内で綱吉と仲良く昼食を摂る時間とこのまま寝顔を堪能する時間とが天秤にかかる。ちょっと揺れたそれはすぐにこの貴重な時間を愉しむ方に傾いた。
そぉっと綱吉の隣に腰をおろしてフェンスに凭れ、購買で買ったパンと牛乳は封を開けずに横に置いた。
(――――・・・かわいいな)
大切な大切な宝物を見るように、目を細めた。綱吉が授業中に居眠りしてる姿はよく見るが、こんな間近に寝顔を見たのは初めてかもしれない。
(ほっぺた、ふにふにだな。顔小っせーし・・・・意外と睫毛長ぇのな)
つん、と頬をつついて赤ん坊のようなきめ細かい肌の張りの良さに笑みを零す。
キラキラと光を弾く栗色の癖っ毛に指をさしいれたら綱吉は嫌そうに眉を顰め、ふるりと軽く頭を振った。
「・・・・・・・ツナ、起きねーの?」
小声で、ぽつりと囁く。
綱吉に起きて欲しくないくせに、あえて声をかけた自分が不思議だった。どうして自らこの穏やかな時間を壊そうとするのか。たぶん山本自身でもまったく説明ができない。
強いて言うなら・・・出来心か悪戯心。
「起きねえなら、―――・・するぜ?」
ピクリと、綱吉の瞼が痙攣した。
間近で見ないとわからないくらい、睫毛がかすかに震えている。寝ているはずの綱吉の身体が緊張に強張るのに気付いて、山本は笑いをこらえて肩を揺らした。
「目ぇ開けねえってことは、オッケーってことな?」
勝手に都合よく決めつけて、吐息のかかる距離で最終通告をした。
「つーな?」
ビクン、と小さく跳ねた体は、それでも逃げない。
笑みの形に目を細めた山本は、薄く開いた小さな唇に―――・・・そっと、自分の唇を押しあてた。
触れた箇所からどんどん広がる熱には気付かないふりをして、山本は束の間、初めての甘くて柔らかい感触に、うっとりと酔いしれる。
春風が、吹く。
重なるふたりを撫でて青空へと吹き抜ける。
あたたかな季節が始まる予感に、山本は口元を綻ばせた。
<END>
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