山本×ツナ2
□拍手短文 山ツナ2
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風呂から上がって、持って来た服に袖を通す。
「・・・・・?」
ふわりと香った匂いに違和感を持って、でもすぐにそれがなぜなのかを思い出して、ああそうかと独り納得してから、俺はそのまま2階に上がった。
トントントン、とウチとは違う階段の音を鳴らして2階に上がると、すぐに襖が見える。
遠慮なくスッと横に開ければ、山本が畳の上にごろんと横になって漫画を読んでいた。
「やまもと―。お風呂空いたよ」
「おぅ。んじゃー、俺も入ってくっかなー」
くぅ、と伸びをして立ち上がった山本は、一緒に風呂に入ると言ってきかなかったけど、今日はおじさんもいるだろと怒って、なんとか丁重にお断りした。
前に一緒に入った時、声は響くわ、鏡に映るわ、お湯が入ってくるわ、浴槽の縁に座らされていつもと違うところを思うさま突かれるわで、感じすぎてとんでもないことになってしまったからだ。
ああ、思い出すだけで恥ずかしい。
調子に乗った山本のせいで次の日腰が立たなかったんだぞ。あんなのはもう二度とゴメンだ。と、懲りた俺は思うのだけど・・・・・・実被害を被ったのは俺だけで山本は相当気に入ったらしく、隙あらば一緒に入ろうと狙ってくるからうかうかしてられない。
「ツナ、もっかい入る気ねぇ?」
「ないよっ!早く行ってきてっ!!」
「あー、やばい。風呂上りのツナってなんでこんな色っぽいんだろーなー・・・」
「っ、ちょっ・・くすぐったいって・・・・!」
「なぁ、もうこのまんまさー、・・・・――!!」
部屋の入口に立つ俺にふらふらと近寄ってきた長身にきゅうっとまるごと抱き締められて。
大型犬・・・というよりネコ科の猛獣がじゃれつくように鼻先で俺の首筋をくすぐっていた山本だが、不自然に身体の動きを止めた。
俺を抱き締めたまま、ゆっくりと、抑えた低い声が確かめるように尋ねてくる。
「・・・・・ツナんトコさ。今、親父さん帰ってきてんのか?」
「ううん?」
父親なら、多分地球上のどこかで仕事中だ。最後に会ったのはいつだったか、すぐには思い出せない。
なんでそんなことを聞くのかときょとんとしたら、ぐっと肩を掴まれ、身体を離された。
目を合わせた山本は、ものすごく恐い顔をしている。それはもう、ものすごく。俺が青ざめて竦み上がる程度には。
「じゃ、この煙草の匂いは――獄寺だな?」
「う・・・・・・」
断定されてもうん、と素直に言えなかったのは、ギラリと光る山本の眼が直視できないほど怖かったからだ。
ついでに、こんなふうに威嚇するような低い声のときの山本は結構ヤバイということも、経験上涙が出るほどわかっている。
「こっ・・・・・・こここれはっ!こないだ獄寺君の家に行ったとき、たまたま俺がテーブルに足引っ掛けてジュースこぼしちゃったから、獄寺君が洗濯しておいてくれただけでっ!煙草の匂いとか付いてるのは、獄寺君がクローゼットに保管しておいてくれたせいだからねっ!だからっ!」
「・・・・・・ツナ」
「は、はい?」
にっこりと。それはそれはもう見惚れるほど爽やかにカッコ良くにぃーっこりと笑った山本の背後に、禍々しくもドス黒いオーラが見えたのは多分目の錯覚じゃない。
あ。これもう本当にヤバイ気がする。
「いつ獄寺ん家行ったんだ?俺、聞いてねーけど?」
「あ゛――っと・・・」
一昨日です。あの。数学の宿題がわからなくて山本の部活中に、つい。という言い訳は聞いてもらえそうになかった。
「俺がいないときに他の男と2人きりになるなって、俺、いっつも言ってるよな?会うんならツナん家にしとけってのも」
低く、地獄の底からはい出したような低く押し殺した声がじわじわと俺を問い詰める。
「えぇ〜〜〜っと・・・」
笑顔なのに、怖い。むしろ、笑顔だから、怖い。
無意識に怒りの発端となった自分のTシャツをきゅっと握りしめると、山本がすぅっと冷たく目を光らせた。
次の瞬間。
「――――ヤッ!」
何を思ったか、山本は恐ろしく素早い動作で、あっという間に俺のTシャツを引き抜いた。
俺が手に持っていた衣類はバサリと床へ落ちる。
「なっ!?」
いきなり上半身裸に剥かれた俺はパニックだ。寒さと驚きにザワッと鳥肌が立つ。
テンパる俺にはおかまいなしに、山本はバッと自分の着ていたTシャツを脱ぎ、それを俺の頭からズボッと乱暴に被せた。
「むゴっっっ???」
当たり前だが、俺が着ると山本のシャツは全体的に大きい。
わけがわからないながらも、とりあえず着せられるままに袖に腕を通せば、腕の長さの違いにちょっとショックを受ける。
くそぅ、せめて半袖だったらよかったのに。
しかも山本のTシャツは丈がやたら長くて太ももあたりまで隠れるのも納得いかない。
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