山本×ツナ2

□ハロウィン
1ページ/3ページ



真昼の屋上の空気は澄んでいて、見上げる空はすっかり秋の色をしている。


「あ。そういえばハロウィンって今日だよね―――」

「ん?」

牛乳パックを持ったままきょとんとこっちを見た山本に笑って、俺は山本の横に置いてある可愛らしいラッピングの袋を指差す。

「ホラそれ。山本がさっきもらったやつ」

「ああ、コレか?」

「うん。ハロウィンの絵が描いてあるからさ」

「あ―――、ホントだな。気付かなかった」

山本は、まじまじと手でつまんで持ち上げた袋を見る。
大きさからして、多分中身はクッキーだろう。昼休みが始まった頃、下級生の女子が持って来たものだ。

にこっと「サンキューな」と爽やか全快の笑顔で女子を真っ赤にさせていた山本は、愛情こもったプレゼントを特にじっくり見るでもなく、もらいっぱなしのまま無造作に脇に置いただけだった。
ある意味くれた子に大変失礼な行為だと思うのに、山本がやると何の嫌みもないから不思議だ。

「なんでオバケが描いてあるんだ?ハロウィンっつったらカボチャじゃねーの?」

首をかしげた山本は、純和風、横文字に疎い生粋の日本人だ。
小さな紙袋を持ったまま、カボチャのオバケ(・・・にしか見えない)の横にかわいい魔女とコウモリ、そして白いオバケのイラストが入っているのを興味深そうに眺めている。

あれ?そうだよね。そういえばなんでオバケの絵ばっかりなんだろう?
俺自身も、外国のイベントはクリスマスくらいしか知らないから答えられない。
一緒になって首をかしげると、横から呆れたような獄寺くんの声が聞こえた。

「だからテメーは野球バカなんだ。ハロウィンってのはなあ、もとは宗教行事で、10月31日の夜に死者の霊が家族を訪ねたり、精霊や魔女が出てくると信じられていたことから由来してんだよ。んなことも知らねえのか」

「「 へぇ〜〜〜〜〜 」」

目を丸くして、山本と俺は獄寺くんの博識に感心する。
口調はぞんざいなくせに、やたらきっちり丁寧に説明するのが彼らしい。

「知らなかったぁ〜。お盆みたいなもんなんだね」

妙に納得して頷いた俺をぐりんっと勢いよく振り返った獄寺くんは、さっき山本に向けたものとは180度違う、満面の笑みだった。

「ハイっ!さすが10代目!飲み込みが早くていらっしゃるっ!!!
イタリアじゃ、ちょうど11月2日が“死者の日”で日本の盆にあたるんスよ」

「え!?そうなの」

驚いた俺に気を良くしたらしい獄寺くんが、ますますテンションを上げる。
やばい。バックがめっちゃキラキラしてるよ。しかも異様に目が輝いてる!!


・・そして獄寺くんは上がりっぱなしのテンションのまま、ペラペラと、それはもう滑らかにハロウィンの起源について語ってくれた。
まるで歴史の授業ばりのそれを、多分俺は三分の一も消化できなかったわけだけど。



「―――ま、さすがにガキの時でも仮装だのTrick or Treatはやりませんでしたけどね」

「・・・トリ?なんだ?」

「あ!俺それ知ってる!」

やっと理解できるレベルになったので、嬉しくなる。

「外国だとハロウィンには子供がお菓子を貰いに家を回るんだって。そのときに“トリック・オア・トリート” お菓子くれないと悪戯するぞって言うんだよね」

「へー。菓子貰いに回んのか。なんか町内会の祭りみてえで面白そうだなー」

楽しそうな顔をした山本に、俺はちょっとしたイタズラを思いついた。
ずいっと四つん這いで身を乗り出して、山本の方に身を寄せる。


「じゃあ、山本、“トリック・オア・トリート”!」


にこ――っと悪戯っぽく笑って顔を覗きこむように山本を見上げる。


「お菓子くれないと悪戯するぞ?」



「「 !!?? 」」



.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ