山本×ツナ2
□星に願いを
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星がキレイな夜だ。
「――――・・・」
ポケットから携帯電話を取り出してホーム画面を開けば、見慣れた液晶画面だけが四角く暗闇に浮かびあがる。
着新履歴にも発信履歴にもない番号をアドレス帳から呼び出して、発信ボタンを押す。
無数の星を見るともなしに見上げながら、山本は冷えたフェンスに凭れかかり、機械的なコール音を聞き流した。
通い慣れたバッティングセンターがあるこの建物の屋上へは、夜中でも入ってくることができる。
もっとも、古びた外階段の踊場にある粗大ごみ的な障害物を乗り越えなければ屋上への入口に辿り着けないわけだから、今のところ山本以外の誰かがここへ入ってきているのを見たことはないが。
本当は勝手に這入っちゃマズいんだろうな、とは思うけれど、開けた場所で、たったひとりで空を見上げたい衝動がどうしても勝ってしまうから、山本はたびたびここを訪れるのをやめられないでいる。
こうして、この場所でただぼうっと空を眺めるようになったのはいつからだっただろう。
大空と聞けば真っ先に思い浮かぶ親友を思い出すからついそうしてしまうのか、たまたま目に映りこむ空が彼を思い起こさせるからそうせずにいられないのか、それは山本自身にもよくわからない。
ただ、ずっとずっと遠く、イタリアまでこの空を辿って行けば、今は会えない親友と繋がっていられるような気がして。
気が付けばいつも、山本は何かを探すかのように、ひたすら遠くの空ばかり見つめている。
中学卒業を期に、綱吉と獄寺がリボーンとともにイタリアへ渡った。1年3カ月前のことだ。
三人で地元の同じ高校へ進学するつもりで受験勉強していたさなかに突然決められた、ずいぶん急な進路変更だった。
絶対マフィアになんかならない、イタリアなんか行きたくないと直前までごねていた綱吉に、面白そうじゃねえか、行ってこいよと肩を叩いたのは山本自身で。
少しくらい距離が離れたからってなにも一生綱吉と会えなくなるわけじゃない。山本には山本の叶えたい夢があって、綱吉には綱吉にしかできないことがある。ふたりの道がいつかどこかで分かれるのは当然で、しかしだからといって山本と綱吉との間にある絆は何も変わらないと山本は考えたから。
だから、山本は笑って綱吉を送り出した。がんばってこいよ、俺もこっちでがんばるからさ、と。
だけど。
たまに――ほんのごくたまに、思うときがある。
もしもあのとき、山本が綱吉に対する自分の本当の気持ちに気付いていたとしても、自分は笑って綱吉を送り出せただろうか、と。
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