山本×ツナ1

□いつも一緒にいたいから
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それは、授業の合間のほんのひとコマのこと。

「――ってわけでさ、ホントあいつらには参ったよー」

家のチビに悪戯された話をしたツナが、「もう嫌だ・・・思い出しただけで疲れてきた」と溜息をついて机に突っ伏した。
俺は「ハハ、お疲れさん!」と笑って、くしゃっとツナの頭をかき混ぜてやった。
なんだかんだ言ったってツナは面倒見が良くて、優しい。きっとチビ達もそんなツナが大好きなんだろう。

「そんだけ懐かれてるってことだろ?相変わらずツナんトコはみんな仲良くて楽しそうだよなー」

「山本・・・いや、だからそんな微笑ましいレベルじゃないんだって・・・」

「てめっ!なに馴れ馴れしく10代目に触ってやがるんだコラ!!!!」

ギン、と睨みつけてくる獄寺は「ご、獄寺くんっ!ここ教室だからっ!」と慌てたツナが止めてくれている。それをいいことに、俺は好き勝手に指を絡ませ、ツナのふわふわした明るい茶色の髪の感触を楽しんだ。
実を言うと、俺はこうやってツナに触るのが大好きだ。んでもって、頭を撫でたときのツナの表情――ちょっと赤くなって、はにかんで、ふにゃっと蕩ける笑顔は、もうたまらない。あまりの可愛さに、最近ではちょっとした中毒になってるってのは、俺だけの秘密だ。
ちなみに、俺がそうするたびにギリギリと歯噛みしている獄寺にちょっとした優越感を抱いているのも、内緒の話。

俺はツナの安心しきった顔が見たいから、いつだってツナの不安も悩みも全力で解消してやる。――・・・できるだけ、さりげなく。まるでなんでもないことのように格好つけて。
だって惚れた奴にはやっぱり凄いって思われたいし、頼りにされたいもんだろ?

「ま、いいじゃねぇか。ランボもイーピンも歳の離れた兄弟みてぇなもんだしさ」

「えぇ――!オレ、あんなのが兄弟だったら嫌だよー。あ、イーピンだけならいいけど」

そう言って眉間にしわを寄せて困った顔をするツナは、何ていうか、こう、胸にきゅうっとくる。
庇護欲をそそるってヤツか?そんな顔されたら、なんでもしてやりたくなっちまうんだよな。
ちらっと横目で見たら、獄寺も同じ感想を抱いているようだった。

本当のことを言えば、もっともっと、どろどろに甘やかして、俺なしでいられないようにしてやりたい。その笑顔を俺にだけ向けてほしいし、俺しか見えなくなればいいのにと、いつも思う。

(!!)

そこまで考えて、できの悪い脳みそが、珍しく名案を弾きだした。ピコーン、と電球がついた、みたいな。
その感動を共有したくなって、唯一わかってくれるだろう同志にずいっと顔を近づける。

「なぁなぁ、獄寺―」

「てめっ、こっちに顔近付けんな、鬱陶しいっ!」

「ツナが弟だったら楽しそうだと思わねえ?」

「んなっ!?」

「や、山本?」

つーか、なんでオレが弟なんだよー、と、ちょっとむくれるツナをよそに、小声で獄寺に耳打ちする。

「ず――――っと小さい頃からツナと一緒なんだぜ?」

「・・・・・・・・・」

獄寺がピキ、と固まる。
コイツの異常な記憶力の良さから察するに、前にツナん家で見た幼い頃のツナが鮮明に脳裏に浮かんだのだろう。

「一緒に遊んで、メシ食って、風呂入って、おんなじ布団で寝てさ。すっげぇ甘やかして、優しくしてやるんだ」

「・・・10代目と・・・――っ!!!!」

「そうすっとツナがさ、上目遣いで、はにかんで呼んでくれるんだぜ―――“お兄ちゃん”って」

「――――――っ!!!」

がはぁっ!!と盛大に呻いた獄寺は、ついにその想像に耐えかねて床に沈んだ。

「うわ!なに!?獄寺君、どうしたの急に!!」

「10代目と・・・10代目が・・・10代目に・・・・・・・・・うっ!」

獄寺は真っ赤な顔で鼻を押さえながら「うあぁ!!ダメですっ!そんなっ!10代目ぇ――!!」とかなんとか言いながら床をバンバン叩いてる。
この反応は、そろそろ想像の中のツナが成長した頃だな。うんうん、解るぜ、その気持ち。

「ご・・・獄寺くーん?大丈夫?具合悪いの?どうしよ山本、獄寺君がなんかおかしいっ!!」

「ハハハっ!大丈夫だぜツナ、健康な証拠だって!」

「どこが!?どっからどう見ても健康な状態じゃないよ!?」

「つーか、むしろ健全?」

「むしろって何!恍惚とした顔で鼻血出してる人のどこが健全!?」

「ハハハ、やっぱツナの破壊力はすげぇのなー」

「やまもとぉぉぉ!!頼むから会話してくれよ―――!!」

ほぼ涙目なツナががくがくと俺を揺さぶったとき、

「おーい、お前ら席につけ――」

チャイムの音と同時に入ってきた数学教師のおかげで、楽しい休憩時間はお開きになってしまった。
ツナが心配するから、獄寺は一応俺が席まで連れてって放置してきたけど、・・・多分あと1時間はあのままだろう。

「じゃー、昨日の続きから。えー、まず、この関数のグラフから・・・・・・・・・」

カツカツとチョークの音をさせながら、教科書の関数グラフが黒板に写される。
数学の授業はどうせ聞いてもサッパリだから、教師の説明は右から左に聞き流して、俺はノートを取るツナのふわふわの頭を見つめる。
後頭部が揺れて、くぁっと欠伸したのがわかった。

(あーあ。んな大欠伸してっとまた注意されるぜ?)

ツナは絶対気付いてないだろうけど、たいてい俺は黒板を見るふりをしてツナを観察している。誰にも見られてないのをいいことに、頬をゆるめてツナを見つめる俺は、ふとある事実に気付く。

(――ああ、そっか。兄弟だったらこうやって授業中のツナを見ることなんかできねえんだな)

一緒に弁当食ったり、昼休みを一緒に過ごしたり、体育の授業でいいトコ見せることできない。2人きりで補習受けることも、クラスの奴にちょっかい掛けられるのをガードすることもできない。
・・・そう思ったら、家で一緒に過ごすだけの関係よりはよっぽどいいかもな、と思う。

(あ―――。つか、要はツナと一緒にいれりゃなんでもいいってことか、俺)

我ながら呆れて、クククと笑ったら、うっかり先生に見つかって注意されちまった。
驚いてこっちを振り向いたツナにへらっと笑って手を振ったら、ホラ。


―――目が合って赤くなるキミに笑いかけるこの幸せは、やっぱり何物にも代えがたい





<END>
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うちの山本は、ホンっトにツナ大好きですね。
好き好きオーラ全開な感じで。
中学生の山本は"想ってるだけで幸せ"みたいな感じがいいです。



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