山本×ツナ1
□本命
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「お疲れっした―――」
泥と埃だらけのユニフォーム姿で、グラウンドの後片付けを終えた1年生達が部室へ入ってきた。
甲子園出場常連校でもあるこの高校では、野球部は設備面で優遇されており、部室も1番広くて新しい。
既に着替えが済んだ2、3年生は帰ったので、広い部室に残っているのは、隅で盛り上がっているレギュラー陣数名であった。
「お!山本ぉ――!!ちょーどいいトコに来た!!ちょっとこっち来いっ!!」
「あ、ハイ!」
新入部員のなかでもひときわ背が高く、男らしく整った顔立ちの1年生レギュラー――山本は、呼ばれるまま小走りに先輩達の輪へ入る。
「何すかっ ・・・っと!」
「お前さー、ミス桜華振ったって、マジ??」
副キャプテンにぐぐっと頭を抱え込まれ、低い声が真剣に聞いてきた。
「・・・・・・は? 何すか、それ?」
「おいおい、隠すなよ〜、オレ見たんだぜ。
日曜に緑高と練習試合したとき、お前帰り際に呼びだされて告られてただろ」
横からキャッチャーの小柄な先輩がにやにやしながら口を挟む。
そういえばそんなこともあったなと山本は思いだして、「あ、アレっすか」と、あっさり肯定した。
すると途端に周りの先輩達が「クソー」「やっぱりお前狙いだったのか――!」「なんでお前ばっかり!」などと喚いて男泣きしている。
ぽかん、とその騒ぎを聞いていた山本だったが、
「っつーか、ミス桜華って、何すか?」
へらっと笑って言ったこの邪気のない一言で、全員を石化させた。
見かねた同じ1年生の部員、平井が寄ってきてポンと山本の肩を叩き、同情の目を向けた。
「お前知らねーで振ったのか・・・・・・。ホラ、月刊誌の”サタデー”ってあるじゃん?あれの素人グラビアで、春に桜華賞ってのやるんだけど、こないだお前に告った緑高のあの子、グランプリだったんだぜ。読者投票でもぶっちぎりで1位」
「へー、そりゃすげーなー」
人ごとのように感心する山本に、こりゃだめだと全員が肩を落とす。
「先輩〜、こいつダメっスよ。しょっちゅう告られてるせいでいちいち女の子の顔なんか見てないんで。中学ン時だって、並盛で1、2を争うほどの人気だったんスよ?」
並盛中でも同じ野球部だった平井とは、それなりに付き合いが長い。機転を利かせて微妙になフォローを入れてくれたものの、先輩達は黙ってない。
「そりゃ山本がモテんのは知ってっけどよー、にしたってミス桜華だぜー?」
「胸でかいしスタイル良くて顔可愛いし。オトコならクラっとくんだろフツー。一体何が不満よ?」
「贅沢だよなぁー」
「とっとと誰かとくっついて女の子こっちに回せよー」
恨みがましい目をしてにじり寄る先輩達に、不穏な空気を感じて思わず山本も後ずさりする。
「や。オレ野球でそれどころじゃないっスから」
「嘘つけ!余裕でレギュラー入りしたくせに何言ってんだこのヤロー!」
「だぁぁぁ!お前のせいでミス桜華がこれから応援来てくれなくれるじゃねーか!どうしてくれんだ!俺の楽しみ奪いやがって!!」
「イでででででで、先輩っ!クビ締まってるって!!ギブギブ!!」
おー、やれやれ、そんな罰あたりはシめてやれー、と囃し立てる先輩達に、何故か平井まで巻き込まれ、体育会系のノリそのままに、大いにシメられた後輩2人だった。
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