山本×ツナ1
□故郷の味は
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―――コンコン
「山本―、入るよ?」
控えめなノックに続いて、いつもの仕事用スーツに身を包んだ綱吉が、ドアの隙間からぴょこりと顔を覗かせた。
「あ、起きてたんだ」
よかったー、と言ながら、綱吉はほっとしたように顔をほころばせ、「よぅ」と挨拶する山本に近づいてくる。
「んー。もう熱も下がったし。ちょうどヒマしてたトコだぜ」
ただ寝てるだけって退屈なのなー、と朗らかに笑う山本は、ベッドの上で半身を起こしたまま、スポーツ雑誌を広げていた。
普段は黒スーツに身を包んでいるため、ラフな私服は新鮮だ。
いつもと変わらない山本の笑顔に、綱吉は内心、胸をなでおろした。
3日前、イタリア北部の敵対マフィアの動向を探る任務から戻った山本は、夜中に突然高熱を出し、そのまま寝込んでしまった。
その後山本だけでなく、同行した部下数名も同じ症状がみられたため検査したところ、最近ヨーロッパ各地で流行している新型ウイルスに感染していたということが判明した。
感染力がこれまでにないほど強力なだけで、症状としては通常のインフルエンザに近いものだという。
『んな慌てんなよ。別に死ぬような病気じゃねえんだ。熱出し切って安静にしてりゃすぐ治るって』
というシャマルの言うとおり、熱は2・3日で下がったのだが、数日はウイルスの潜伏期間があるため、「十代目にうつったら大変ですから!!!」という心配性(を通り越して過保護)の右腕の剣幕に押され、綱吉は今日の今日まで山本と面会謝絶だったのだ。
「でも本当に良かった。山本が熱出すなんて珍しいからさ、焦っちゃったよ」
眉尻を下げて綱吉は困ったように笑った。
十年来の付き合いになるが、この健康優良児を絵に書いたような親友が熱を出して寝込むなど、はっきり言って記憶にない。・・戦闘や修行のケガがもとで入院することは稀にあったが・・。
だから、深夜に綱吉のもとへ任務の報告に来た山本が心なしかフラフラしていて、額を触ってみたら焼けるように熱くて、大急ぎでアジト内の山本の部屋に寝かせた後も、親友が高熱に浮かされてる様子が信じられなくて、付き添っている間心配と不安で泣きそうになってしまったことは、綱吉だけの秘密だ。
ちなみに、仕事の合間に山本の様子を気にする綱吉に、獄寺が内心穏やかでなかったことは言うまでもない。
「わり。心配かけたな。でも、おれもツナに会えなくて寂しかったんだぜ?・・獄寺にはツナに心配かけんなって散々説教されるしよ」
俺、病人なのにひどくねぇ?
切々と訴える山本に、綱吉はコロコロと笑う。
そのあとは、山本の休みの間の仕事の進行状況を簡単に伝え、ふと綱吉は時計に目をやる
「うわっ、もう14時だよ!?戻らなきゃ。山本は、ちゃんとお昼食べた?」
「あぁ、・・ん――――― 少しな」
珍しく歯切れの悪い返事に、綱吉は目をしばたたかせる。
「あれ、まだあんまり食欲ない?」
自分が面会を許されたくらいだから、もうすっかり良くなっていると思ったのだが、違っただろうか。
心配顔をする綱吉に、山本はあわてて否定する。
「いや。そうじゃなくって。もう普通に食えるんだけど。なんつーか・・あんま食う気がしなくってさ」
・・それを世間一般では食欲がないと言うのでは・・
心の中で突っ込んだ綱吉だが、確かに山本の様子を見る限りすっかり元気で、食欲がないようには見えない。
まあ、寝てばかりだからお腹もすかないか、と納得することにして、綱吉は立ち上がった。
「じゃあ、もう少ししたら軽い食事を持ってくるように言っておくね。俺は仕事に戻るけど、夕方頃には様子見に来れると思うから、ゆっくり寝ててね」
「ん。サンキューな。ツナもあんま無理するなよ」
ニカッっといつもの爽やかな笑顔で、嬉しそうに山本が綱吉を送り出す。
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