山本×ツナ2

□バレンタイン!≪後編≫
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「や、山本・・・・」

助けを求めるように俺の方へ身を寄せてきたツナを肩越しに振り返れば、今にも泣きそうな顔をしている。
いや、んなに怯えなくても、多分こいつツナのことは噛み殺さないと思うぜ。・・・多分だけど。

「ハハ、大丈夫だって」

心配症だな、と思って笑いかけたら、ツナはホッとしたように顔を綻ばせて「・・・・うん」と軽く頷いた。

(――――かわいい・・・)

素直な信頼に、胸が蕩ける。今なら俺、なんでもできる気がすんな・・・と、俺がヤニ下がったのと、雲雀がムッとしたのは、たぶんおそらくまったく同時。
雲雀が憎悪のオーラをぶわっと揺らめかせ、ギン、と俺を一直線に睨みつけてきた。

「――――つくづく君は邪魔な男だね、山本武」

「ひでぇな。なんだよそ―――ッ!?」

「や、山本ぉっ!!」

雲雀のトンファーがビュンっと俺の方に飛んできて、間一髪で後ろに飛び退く。
そのまま、ヒュン、ヒュン、と連続攻撃を仕掛けられ、見切って避けるのに精いっぱいだ。あっという間に廊下の端まで追いやられ、逃げ場がないのでパシっとトンファーを握って止めた。話せば解る・・・と、思いたい。

「待てよ、落ちつけって!ちゃんと用事済んだらツナ連れて帰っからさ!」

その言葉にピクリと反応した雲雀が、切れ長の瞳を吊り上げて、射殺しそうな視線で俺を睨んだ。
あ、あれ・・・なんか・・・今、俺、地雷踏んだっぽくね?

「勝手に我がもの顏しないでくれる?―――不愉快だよ!!」

「は?ちょっ、待っ・・・・――――っうをっ!?」

握ったトンファーごと容赦なく振りはらわれ、驚いた隙に腹に一撃を喰らう。衝撃で吹っ飛んだ。
敵意むき出しでかかってくる雲雀は、いつものように噛み殺すのを愉しんでない。つまり、本気だ。


(―――なんだ?なんでこいつこんなに余裕ねぇんだ??)


らしくない。とまでは言わないけど、なんか変だ。


――――ガツっ!!


雲雀が、容赦なくトンファーを叩きつけてきた。あまりの速さに、顔の前で交差させた腕にまともにくらう。

「山本ぉぉ!!」

遠くから、ツナの悲痛な声が聞こえる。

「!?」

その声に一瞬怯んだように手を止めて、それを振り切るように再び俺に攻撃を繰り出す雲雀。

「――――っ・・・!」

真っ向から叩きつけてくる憎悪に近い感情。鋭い眼の奥に灯る焔。ツナにだけ向けられた、優しくて温かい眼差し。


(ちょっと・・・待てよ・・・・・?)


ひとつの可能性が、頭をよぎる。

なんか、これじゃ、まるで――――まるでこいつ、俺に嫉妬・・・してるみてぇじゃないか?


(まさかヒバリ、ツナのこと―――・・・・!?)


突然そう閃いて、けれど、なんで、嘘だろ、馬鹿な、と打ち消したい迷いが飛び交う。


―――ヒュンッ ヒュッ


俺の疑念を肯定するように、攻撃は続く。
廊下の角を曲がって、2棟の校舎をつなぐ渡り廊下まで駆けた。こんだけやられりゃ反撃したって立派な正当防衛だが、できればツナから離れたトコでやりたい。
ドガン、と大きな音を立てて俺を追ってきた雲雀が壁を破壊する。

「っ、あぶねっ!―――トぉっ・・ととっ・・・!」

避けたはずみで跳躍した俺は、タン、と廊下に足をついたが、なにせ靴下なもんで廊下は滑る。
勢いよく片足で壁を蹴って止まったら「キャッ!」と曲がり角の影から声が聞こえてギョっとした。尻もちをついているのは黒い眼帯をした女子生徒。

「――――クローム!?なんでこんなトコに!?」

「・・・・委員会、遅くなって・・・忘れ物して。音がしたから・・・」

「あ〜〜〜〜、悪ぃ、取りこんでんだ。いいから下がってろ!―――げ!!」

「噛み殺すっ!」

クロームに気を取られた隙に、再び加速して突っ込んできた雲雀をよけきれず、俺とクロームはドゴォォンという爆風に巻き込まれた。

「!!??」

衝撃で、廊下の端に積んであった古い机やら椅子やらロッカーやらが俺とクロームに向かって倒れ込んで視界が真っ暗になる。
ツナの悲鳴のような声が遠くから俺を呼んでいる気がした。



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