山本×ツナ1

□愛する資格V
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< side Tuna >



部屋の前まで来て、足を止めた。
深呼吸して、なんとか緊張を落ちつけようとする。
勢いでここまで来たものの、いざ会ったら何て言えばいんだとか、っていうか、そもそも俺なにしに来たんだっけとか、色々考えて前に進めない。

「・・・・・・・・・」

たった1週間ぶりの親友の部屋なのに、なぜか異常に敷居が高く感じる。
右手をいつも通りドアノブに伸ばそうとして、でもやっぱり手首を返してドアを叩く形にして、いやそれも変かと思って手を引っ込める。
普段なら山本の部屋に入るために綱吉がノックをする必要はない。たとえ部屋に本人がいなくても自分の部屋と同じように出入りしていたのは綱吉も山本も同じで、それは日本で互いの実家に行き来していたときからずっと変わっていないから。
結局いつも通りにしようとドアノブに手を伸ばそうとした瞬間。綱吉はピクンと全身の動きを止めた。

(・・・・・・話し声?)

神経が昂っていつもより全身の感覚が鋭くなっていたせいだろうか。部屋の中に、人の気配を感じたのだ。
テレビかと思ったが、違う。
電話でもかけてるのかもしれない。そう思ってドアに耳をつけ意識を集中させると、会話のようなリズムで異なる声がくぐもって聞こえてきた。やはり誰かが部屋に来ているらしい。

(どうしよう・・・)

せっかく山本と話をしようと覚悟を決めてきたのに。出鼻をくじかれた思いで綱吉は逡巡する。
出なおしたほうがいいだろうか。だけど、もし中に誰かいるのなら、そのほうが気まずくないかもしれないし・・・なんて後ろ向きな考えが頭をよぎる。

(あ。もしかして、獄寺くんかも・・・!)

なんといっても、このアジト内で山本の部屋を訪れる人間はそう多くない。中にいる人間が綱吉が知らない人である可能性はかなり低いのだ。
それなら様子をみて、取り込み中なら廊下で待っていればいいだろうと思い直す。
音を立てずにゆっくりドアノブを回す。無意識に気配を殺し、数センチだけドアを開いてそっと中の様子を窺った。

ワンルームの、それほど広くない部屋である。コンクリートでできた壁は部屋の中の音をよく反響させ、綱吉の耳は、わずかな隙間からクリアな音声を拾う。
姿までは確認できないものの、ハッキリ耳に届いたのは、聞き慣れた家庭教師の声だった。

(この声・・・・リボーン!?なんで山本の部屋に!?)

そういえばここ最近姿を見かけていなかった。どこへ行っているのかと思っていたが。

(――アイツ、一体なにして・・・・・)

相手がリボーンなら気を遣う必要はない。
そのまま一気にドアを開こうと手に力を入れた瞬間、


「・・・・・なあ。小僧も、やっぱ俺が日本に帰ったほうがいいと思ってんのか?」


――――ドクンっと心臓が膨張する。


(――――っ!?)


心臓が握りつぶされるかと思うほど、痛い。それが久しぶりに聞いた山本の声のせいなのか、聞こえた内容のせいかなのは、綱吉にはわからない。

「さっき言っただろ。決めんのはお前だってな」

(さっきって・・・・?なに・・・・ふたりとも、何の話をしてるの・・・?)

口調は、軽い。なのになぜか、二人の話す内容が真剣なものであると、綱吉にはわかってしまった。

「ハハ、そりゃそーなんだけどな」

朗らかな低い声が、耳に懐かしい。
慣れた心地よい響きは、耳の中から綱吉の中に入り込み、内側から細胞をトロトロに溶かしてしまう。

(・・・・・・山本の声、だ・・・)

その声を聞くだけで、ドキドキドキと、うるさいほど鼓動が速くなるのを感じる。
カァ、と皮膚に熱が集まったそのとき。

「お前の父親だって、別にお前にプロになれとまでは言ってねえ。ま、その球団の契約を保留にしたのは、言ってみりゃ親心だろうけどな」

「―――っ!!」

一気に冷水を浴びられたような寒気に襲われた。

―――“プロ” “球団” “契約” “保留”―――

いくら鈍くて、頭の回転が悪い綱吉でも、その単語だけで内容を察するには充分だった。いや、本当は察したくなんかないと、脳は考えることを拒否してフリーズしているけど。
それらの単語が意味することは、たったひとつしかない。

「本音を言え。お前、何をそんなにこだわってんだ?」

青褪めて指一本動かせない状態で。
綱吉はドアの隙間からこぼれる山本の言葉を待った。


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